目が覚めたら、真っ先に視界へと入ったのは彼女だった。
どうやら私は彼女に膝枕をされて眠っていたらしい。

「あっナナミン目覚めた?」
「ここは?」

起き上がりながら辺りを見回す。
崩れた煉瓦造りの壁から月の光が差し込んでいる。丸々と輝いているそれで、今夜は満月だということが分かった。
床には、崩れた壁だろうか煉瓦が転がっている。敷かれたカーペットは汚れてしまっているが、高価な物であったことが見て取れた。
部屋の内部に置かれていた家具類を見ても、高価そうな装飾がしてあるものばかりが並んでいる。
まるで、中世ヨーロッパにある城の様だ。

「昔どこかの偉い人が住んでたお城みたい。すっかり廃墟になっちゃってるけど……」

一旦、彼女はそこで言葉を区切った。そして、少し言いづらそうに口を開いた。

「ところでね、これどうやら夢の中みたいだよ」
「夢の中?」
「うん」

何を言っているのだろうか?と思ったが、彼女の格好をよく見れば普段の格好とはまるで違う
ワインレッドのドレスを着ていた。
ここが、廃墟となった古城でなければパーティにでも参加する様な格好だ。まるで中世ヨーロッパの女性が着ているといえばいいのだろうか、そんな彼女のドレス姿に思わず魅入ってしまう。

「それでね、私どうやらここでは吸血鬼なんだって」
「は?」

思わず間の抜けた声が出た。
二度目になるが、何を言っているのだろうか?目の前の彼女を見ても、普段と違った格好以外は特に変わったところは見当たらない。見慣れた、いつもどおりの彼女に見える。
しかし、彼女に、ほら、と口を開いて鋭く尖った犬歯を見せられて納得した。確かに、私の知る彼女の犬歯はそんなに尖っていなかった。

「今がどんな状況かを説明すると、私ナナミンのこと攫ってきたの。血を吸うために」

彼女の瞳が妖しく光った様に見えた。
きっと彼女の言うことは本当なのだろう。何故なら、彼女は嘘をつくのが下手クソだからだ。嘘をつく時、彼女は視線を合わせない。後ろめたさがあるからか、視線を合わせられないと言った方が正しいのかもしれない。
ここが夢の中だと言った時も、吸血鬼だと言った時も彼女は真っ直ぐにこちらの目を見て言ってきた。ならば、嘘ではない。
嘘ではないと理解していても、突然の状況に驚かないわけではない。
落ち着くために一息深呼吸をした。

「あれ?驚かないの?」

そんな私を見て、彼女は首を傾げる。

「驚いてますよ」
「えーそうは見えない。怖くないの?」
「怖くありません」
「どうして?吸血鬼だよ?」
「それがアナタを怖がる理由にはなりませんね」
「え?」
「名前、アナタになら私は血を吸われても構いませんよ。その代わり、今後血を吸う相手は私だけにしてくれませんか?」

驚いた様に大きく見開かれた瞳が揺れる。
月明かりに照らされたそれは、先程の妖しさを帯びた瞳とは違って見えた。

「それは、どういう意味?被害者を他に出さないため?」
「それもありますが、アナタに他の誰かの血を吸わせたくないので」
「やっぱり、ナナミンはずるいなあ……」

困った様な笑みを浮かべて、そのまま抱き着いてきた彼女を受けとめる。
吸血鬼になっても、彼女の笑みの浮かべ方が変わらないことに安心した。

といったところで、目が覚めた。
今度は、よく見慣れた天井が真っ先に視界に入る。やはり、夢の中で彼女が言ったとおり全て夢だった様だ。
それにしても、不思議な感覚だ。夢だと分かっていても、まるであれが本当にあった出来事の様に感じる。
目が覚める直前に抱き着いてきた彼女から香った匂いは確かに彼女のそれだった。
ふと隣を見ると、気持ち良さそうに眠る彼女の寝顔が目に入る。

「唐揚げパフェ……?嘘でしょ……」

一体何の夢を見ているのだろうか。
今しがた私が見た夢とは別の夢を見ているのだろう彼女の寝言に思わず笑みを漏らした。


2019/05/20

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