かれこれ三週間になる。
三週間も彼に会えていない。お互いの出張が入れ替わりで続いたり、高専に行った時間帯が別々だったり彼の家に行っても出かけた後だったりと、見事にタイミングが合わず今日まできてしまった。気付けば三週間が過ぎてしまっている。
主のいない彼の家で、ソファーに座り呆けている。どうしてこんなに彼に会えないのか、と。
いや、正確には少しだけ顔を合わせたことはあったが、少なすぎて実質会えていないのと同じだ。
その間、電話等で話をすることはあったけれど、やっぱり会って話がしたい。
三週間でこんなに会いたさが募るのに、彼が高専を出た後の長期間よく耐えれていたなと思う。あの時は、もう彼には会うこともないだろうと思い込んでいたし、任務に没頭することで忘れようとしていたからだ。最終的には我慢出来ずに、彼に会いに行ったのだけれど。
しかし、今は状況が違う。同じ職場で働いているし、半同棲の様な生活をしている。会う機会はいっぱいあるじゃないか。会えない方がおかしい。
よく考えてみなくても、この三週間彼よりも伊地知と顔を合わせた回数の方が多いのはおかしいと思う。私が伊地知と顔を合わせる度に、彼に会えないのはおかしいと口にするのを見かねてか伊地知はこれでも食べて元気を出してください、とコンビニで新作のチョコレートを買ってくれた。優しい。
彼には会えないのに、この前彼と一緒の任務だったという猪野には会った。自慢をする様に言ってきたので正直ムカついた。
しかも、その任務の時に関わった一般の女の人が彼に気があったみたいで、食事に誘われていたと余計なことまで伝えてきた。
彼はかっこいい。だからモテるんだろうなと思う。かといって、彼が他の誰かに浮気をすることはあり得ないとも思っている。何故なら、私は彼のことを信頼しているし、大事にしてくれていることも分かっているからだ。
分かっているからといって、嫉妬をしないかといえば、それはまた別の話になってくる。頭では分かっていても、不安になることもある。こんなに会えない期間が続いている時は、特にだ。だから、彼が女の人に食事に誘われていたとか、そんなことは知りたくなかった。聞きたくなかった。伝えてほしくなかった。

「あーナナミンに会いたいー!」

ソファーに倒れこんで思わず声に出していた。
彼に会ったら、寂しさやどうしようもない不安やこのよく分からない蟠りが全て消えてなくなる様な気がする。会いたい、ものすごく会いたい。彼を独り占めしたい。

「ナナミン〜会いたい!どこに行けば会えるの?今どこにいるのー?」
「ここにいますが……」

完全なる私の独り言に返ってくる言葉なんてないと思っていたのに、今一番聞きたかった声が返ってきたことに驚いた。
驚いて寝そべっていた体勢から勢いよく飛び起きた。

「えっナナミン!?いつ帰ったの!?」
「たった今」

部屋の入り口に立っている彼をまじまじと見つめる。
あれほど会いたいと願った彼がいる。夢ではない。ようやく会えた。

「ただいまって言った!?」
「言いましたよ。何やら騒いでいたから聞こえなかったんでしょう」
「えへへ……」

着替えて来ますね、と彼は寝室へと歩を進める。寝室のドアを開けて、入ろうとしたところで一旦足を止めた。

「名前、私も同じですよ」
「え?」
「会いたかったのは私も同じです」

そう言い残して、寝室へと入って行く。
私の独り言は、ばっちりと彼に聞かれていたらしい。そういうところ本当にずるいと思う。
彼の後を追いかける。寝室へと入ると、上着を脱ごうとしていた彼の背中へと抱き着いた。久しぶりの彼の温かさに心が落ち着いていくのを感じる。

「名前?」
「……ナナミン」
「何ですか」
「ナナミンを独り占めしたい」
「それなら既にしてるでしょう」
「じゃあもっと!」
「どうぞ。ああ、でも、条件があります」
「条件?」
「私にも名前をもっと独り占めさせてくれませんか?」
「……うん、いいよ」

返事をしながら、更に強く抱き着いた。もう今日はこのままずっと彼にくっついていたい。


2019/05/13

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