※小説ネタ


ホテルの部屋へ入り、スマートフォンの画面を見るとそこには同じ人物からのメッセージが大量に表示されていた。
マナーモードにしていたため気付かなかったが、画面に表示されている大量のメッセージの送信元である名字名前の文字を見て一瞬何かあったのだろうかと思った。
そう思ったのも本当に一瞬だけで、彼女のメッセージ内容にざっと目を通して、真っ先に出たのは溜息だった。要約すると、私も北海道旅行に行きたかったというものだ。まず、旅行ではなく出張なのだが彼女の中では旅行に置き換わってしまっているようだ。
ぎゃあぎゃあ、と騒ぎながらスマートフォンにメッセージを打ち込んでいる彼女の姿が容易く想像出来る。思わずふっと笑みを漏らしてしまう。
最後に彼女からメッセージが送られていた時間を確認する。今から十分程前。夜もいい時間を回った頃だが、おそらくまだ起きているだろう。メッセージを返すよりも電話をした方が早いと、履歴から彼女の番号へ電話をかけた。
数回のコール音の後、彼女の声が聞こえてくる。

『ナナミン!ずるいよー、私も北海道行きかったし、ジャガバターとソフトクリーム食べたかった!』

何故、彼女が昼間食べたものを知っているのかという疑問は浮かんだが、五条さんが彼女にメッセージを送りつけたのだろう。大雑把にしか見ていないが、彼女からの大量のメッセージの中にもそんなことが書いてあった。

『悟と一緒に楽しそうにジャガバター食べてるし、北海道ずるい!』
「楽しそう?」
『楽しそうに食べてたじゃん!悟が写真送ってきたもん』

いつの間に撮ったのか。
彼女の言うように楽しそうには写ってはいないように思うが、彼女にはあれが楽しそうに見えたらしい。

『私だって日本で三番目にジャガバター好きなのに……』

随分と身近なところに、日本でジャガバター好きな人物トップ三のうち二人がいたものだ。

『ソフトクリームも全種類食べ比べしたかった』
「お腹壊しますよ……」
『そ、そこは気合いで、なんとか……』

なんとかなるものではないだろう、というツッコミはしないでおくことにした。

『出張だって暫く遠くには行ってないのに……私もどこかに旅行に行きたい!』
「なら、今度どこか旅行に行きましょう」
『えっいいの!?行く!』
「どこか行きたいところはありますか?」
『日本百名城巡り!』

彼女から有名な観光地名が出てくるとは思っていなかったが、即答されたその回答にそうきたかと思った。北海道ですらない。
こういう場合に、彼女はこちらが予想するような回答を返してくる人物ではない。
というか、日本百名城巡りは別に構わないが、範囲が広すぎる。まさか一度の旅行で全てを回り切ろうと考えているわけではないだろうと思いたい。

「名前、もう少し範囲を絞れませんか?」
『えっ?』
「まさか一度に全て回るつもりだったんですか?」
『……うん』

まさかだった。
前述の私の予想など軽く裏切ってくる。

「流石に一度に全ては無理でしょう」
『えー……』
「何度かに分ければその分、旅行に行ける回数が増えますよ。それではダメですか?」
『あっそっか!それいいね!じゃあ、今度行くところ調べておくね』
「ええ」
『へへー、ナナミンとの旅行楽しみ!』

それから他愛のない話を交わしてからおやすみなさい、と電話を切った。
深く息を吐き出す。わざわざ北海道まで赴いて後味の悪さが残る一件だったが、彼女との会話で幾分かそれが和らいだ気がする。
お土産に彼女の好きなマ◯セイバターサンドを買って帰ろうと思った。


2019/05/01

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