動物園に来たのは一体いつ以来だろうか。
少なくとも高専に戻って来てからは初めてになる。
それというのも事の発端は彼女に動物に行こうと誘われたからだ。唐突にパンダが見たくなったらしい。パンダなら普段から高専でよく目にしているはずだと思うのだが彼女曰く違うとのことだ。

「身近にいるじゃないですか」
「パンダはパンダだけどパンダじゃないから」

という会話をしたのは数週間前だったか。それから互いの休みを調節し今日に至る。
パンダがいるコーナーは人気のようで長い行列が出来ていた。彼女と私は現在その列に並んでいるわけだが、並んでからころころと話題を変えて楽しそうに喋る彼女のお陰で自分一人だけならうんざりしそうな待機時間も苦にはならない。先ほどまでは調べてきたのだろうパンダについての雑学を自慢げに話していたが、今はランチの話題に変わっていた。
園内にあるランチが人気のお店に行きたいとメニューについて彼女が語っている途中で、木からぶら下がるタイヤで遊んでいるパンダが見える位置まで列が進んだ。彼女の意識がランチからパンダに完全に上書きされる。パンダにきらきらと目を輝かせ始めた彼女のことを可愛いなと思った。

パンダを無事に見終えた後も色々な動物を見て回ったが、目にする動物全てに彼女は可愛いと口にしては楽しそうにしていた。

「何にでも可愛いと言うんですね」
「だってみんな可愛くない?」
「確かに、可愛いとは思いますが……私は名前の方が可愛いと思います」

至って普通に思っていることを言えば、彼女は今日一番驚いた顔をして固まっている。
今更そこまで驚くようなことでもないはずなのだがそこがまた彼女らしい。思わず笑みを漏らし、やはり可愛らしいなと思った。


2024/07/07


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