午前の任務が終わり、次の任務先へと車で向かっている。
が、聞いていた任務先の方向とは違うルートに進んでいる。運転をしている伊地知くんに聞いてみるが上手い具合にはぐらかされてしまった。その時点で、彼女が絡んでいることが容易に想像がつく。また伊地知くんに無理を言って振り回しているのだろう。彼女に巻き込まれている伊地知くんに申し訳なく思いながらも、今度は何を企んでいるのだろうかと彼女の企てに期待をしてしまう自分がいることも事実である。つくづく私は彼女に甘い。
目的の場所についた車はゆっくりと停車する。
途中で向かっている先がどこであるかは気づいていたが、ここはどう見ても空港だ。そして、車が止まったのを見計らって大きなキャリーケースを二つ転がしながらこちらに近づいて来る人物がいた。遠目でもそれが誰であるのかなどすぐに分かる。

「名前?」

彼女は車の側まで来ると足を止め、いたずらが成功したような笑みを浮かべて見せた。それから、私が乗っている後部座席のドアを開けると手を差し出してくる。

「誕生日おめでとうナナミン!これが今年の私からのサプライズプレゼントです……!」

そういうことか、と彼女の今回の企みを把握した。
彼女とは長い付き合いになるが、本当にこちらの予想の範囲を超えることを平然としてくる。先ほど、彼女の企みに期待してしまうと言ったがこれは期待以上のことである。というか、驚きを隠せない。まさかここまでのサプライズをしてくるとは思わないだろう。

「驚いた?」
「はい、驚きました」
「やったー!大成功だ!伊地知もありがとね」
「いえ」
「名前、念のため聞きますが任務の調整は?」
「ばっちり!私とナナミンはこれから休暇に入れるように調整済みでーす」

ちょっと無理したけど、と彼女が最後にぼそりと漏らしたのを聞き逃せなかったがこの場では問いただすことはやめておくことにした。

「だから安心して?」
「分かりました」
「じゃ、行こっか!」

待ちきれないというように急かしてくる彼女に促されるがままに車から降りる。降車の直前に、今回の彼女の企みに巻き込まれた伊地知くんに礼を告げた。少しだけ疲れているように見えたが、それでも彼はこちらに笑顔を向けて口を開いた。

「ゆっくりして来てください七海さん。誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。お土産買ってきますね」

早く、と大きなキャリーケース二つを転がしながら前方を小走りしている彼女の隣へと駆け寄る。片方のキャリーケースを彼女の手から預かった。
自分の分を用意するだけでも大変だったはずだが、それを私の分まで用意しここまで運んでくるのはさぞや大変だったろう。それだけではない。今回のために、旅行の手続きや日々の任務をこなしながら彼女と私の休暇を合わせるために調整をするのはずいぶん苦労したはずだ。

「名前、ありがとうございます」
「どういたしまして!」

そんな苦労など微塵も感じさせない笑顔を向けてくる彼女に自然とこちらの口角も緩む。

「時間は大丈夫ですか?」
「うん、まだだいぶ余裕あるよ」
「……そういえば、行き先はどこなんですか?」
「ふふふ、その質問待ってた!なんと行き先は…………」

彼女はわざとらしくたっぷりと間を置いてから、満面の笑みで質問に対する答えを告げた。

「クアンタンです!」
「……」
「あれ?無反応?もしかして気づいてた?」
「いえ、驚きました。覚えててくれたんですね」
「もっちろん!」

いつだったか、クアンタンに行ってみたいと話をしたことがある。
何の話をしていてそういう話をしたのかすら曖昧な、他愛のない日常の会話だ。それを彼女はずっと覚えていて、今回のサプライズプレゼントにしてくれたのか、とじわじわと嬉しさが込み上げてくる。
毎年、七月三日という私の誕生日を忘れずにおめでとうと祝ってくれることが十分嬉しいというのに、彼女は私を喜ばせることが本当に得意なようだ。


2023/07/05
ナナミン今年も誕生日おめでとう。

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