ここ数年の七月三日は、その日に限って任務が立て込み当日にゆっくりと過ごすことは出来ずにいた。
そのため、今年こそはと張り切り出した彼女と予定を調整し休みを入れていた。あとは当日が来るのを待つだけだったはずなのだが、七月一日の夕刻に明日から四日まで急な任務が入り九州へと出張になってしまった。
仕方がないといえばそうなのだが、七月三日が誕生日である私以上に嬉しそうに張り切って色々と準備を進めていた彼女には伝えづらさがある。きっと落ち込むだろうと予想はしていたが、いざ彼女に伝えるとこの世の終わりのような顔をされた。

「申し訳ありません……」
「……」

無言の彼女に再び謝ろうと私が声を発するよりも彼女の方が早かった。

「仕方ないよね……残念だけど……」
「……名前」
「ナナミンは悪くないから気にしないで!でも悔しいから出張入れた人には後で文句は言うけど」
「お手柔らかにお願いします」
「分かった」

返事の後、再度無言になった彼女は何やら考えているように見える。少しすると、何か悪戯を思いついた子供のような顔を向けてきた。

「決めた、後日祭をやります!」
「後日祭?」
「うん」
「会ではなく、祭なんですか?」
「そう、フェスティバルです」

わざわざ英語で言うことで、何かしらのこちらの反応を期待しているのかと思ったが、先程のこの世の終わりのような表情から一変し楽しそうなところを見るとどうも違うらしい。彼女は本気で後日祭をするようである。
残念だと言いながらも、すぐにこういう切り替えが出来るところが彼女らしいと自然と頬が緩むのを感じた。



七月二日二十三時半過ぎ、出張先のホテルから彼女に電話をかけようとスマートフォンを手にした。
毎年一番に私へ誕生日おめでとうを言いたがる彼女はまだ起きているだろう。だが、彼女のことだ翌日も任務があるから私が既に寝ているかもしれないと気をつかいスマートフォンを手に迷っているだろうなとも思う。ならばこちらから先に電話をしてしまえばいい。スマートフォンの通話履歴から彼女を選択する。数回のコール音の後、彼女の元気そうな声が聞こえてきた。

『ナナミン!』
「はい」
『えっ寝なくていいの!?明日も任務じゃ……』

やはり予想どおりだ。

「寝る前に名前の声を聞きたくなったので」
『えっ!?じ、じゃあいっぱい喋るね!』
「お願いします」
『何喋ろっかな?いっぱい話したいことはあるんだけど……あっ今ね、後日祭に向けて飾りつっ……じゃなくて、かざ……えーっと、そう!風車!』
「は?」
『か、風車をね、回すのが私の中でブームでしてね……』

今に始まったことではないが、誤魔化すのが下手すぎる。
飾りつけをしていたということはバレバレだが、そこは聞かなかったことにしておくことにした。

「そのブームはいつから始まったんですか?」
『えっ……つ、ついさっきかな!?』

電話の向こう側で彼女があたふたしているのが容易に思い浮かぶ。
それから他愛のない話を続けて、気づけば日付が変わるまであと数十秒になっていた。彼女と話していると時間の経過が早い。

『それでね……あっ待って』
「?」
『ナナミン誕生日おめでとう!』
「ありがとうございます」
『今年も一番にお祝いできてよかった〜』

彼女は、嬉しそうな笑みを浮かべているのだろう。
彼女が側にいなければ自分の誕生日など日々の忙しさで忘れて過ごしていただろう。それを毎年一番に祝ってくれる彼女の存在が素直に嬉しいと改めて思った。


2022/07/03
ナナミン今年も誕生日おめでとう!

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