ふとした時に思う。
どうして彼は私のことを好きになってくれて一緒にいてくれるのだろうか?と。
自分を卑下するわけではないが、彼にはもっと相応しい人がいたのではないだろうかと思う。それを彼に伝えたら、その言葉はそのまま返します、と言われてしまいそうではある。
私は今、ソファーに座り読書をしている彼の膝を枕にして寝そべっている。邪魔だと言われないことをいいことに、寄りかかったり読んでいる本を後ろから覗いてみたりしていたが、最終的に落ち着いたのが彼の膝枕だ。
ここからだと私の視界に広がるのは彼の読んでいる本だけだ。購入した時に、どこかの書店でかけてもらっただろう書店のロゴが入ったカバーのせいで本のタイトルは分からない。いや、薄っすらとカバーから透けて見えないこともないが読み取ることは難しい。
私は、その書店のロゴが入ったカバーを眺めながら先程の議題について再び考える。
きっと彼に相応しい人は、私のように読書をしている彼の周りでうろちょろしたりせずに隣で優雅にお茶でも飲みながら一緒に読書をするような人だ。読書の趣味も合うに違いない。共通の本の話題で盛り上がったりするのだろう。
ここまで考えて、私は存在しないその人に嫉妬をする。勝手に想像をしたのも自分、結果、その自分の想像にまた自分で嫉妬をするなんて我ながら馬鹿だと思う。無意識に大きな溜息を一つ落としてしまった。
同時に頭に軽い衝撃。彼の大きな手が私の頭を撫でていた。

「随分大きな溜息ですね。どうしたんですか?」

読書をするのを止めた彼の視線は、本ではなく私に向けられる。
私の視界に広がっていた書店のロゴが入ったカバーは、私の頭に乗せられている手とは逆の彼の手に収まっていた。

「あ、ごめん。うるさかったよね……」
「いえ、あれだけ周りをうろうろしていて今更でしょう」
「う……ごめんなさい……」
「慣れてるので大丈夫ですよ。丁度、キリのいいところなので休憩しようと思ったところです。で、何かあったんですか?」
「えーっと……その……存在しない人を想像して嫉妬してたというか……」
「は?」
「うーん……あのね、ナナミンはどうして私のこと好きになってくれたのかなって……」

予想外の返答だったのだろう。彼は驚いた顔をした。
少し考える素振りをすると彼は、再び私の頭を軽く撫でた。

「アナタが好きにさせたんでしょう」
「え?私?」

今度は私が考える番だ。
何か彼に好きになってもらうようなことをいつかの私はしたのだろうか。学生の頃から思い返してみるが、特にこれといって心当たりはない。

「……何かしたっけ?」
「そうですね……敢えていうなら、そういう無自覚なところですよ」
「無自覚……」
「何故、急に気になり出したんですか?」
「ナナミンに相応しい人は他にいる気がしたから」
「その言葉はそのままお返しします」
「あ、やっぱり?」

彼は呆れたような溜息を一つ落とした。

「前にも言いましたが、私が隣にいてほしいのは名前だけです」

それを聞いて頬が緩んでいく。
我慢出来ずに気の抜けた笑みが漏れてしまう。勢いよく起き上がって、彼の首に腕を回して抱き付いたら背中に腕を回され抱き締め返された。その彼の腕が温かくて優しくて私はまた気の抜けた笑みを漏らしてしまった。


2021/11/23

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