「ねーナナミン最近流行ってるあれが食べたい」

ベッドに入りベッドサイドランプの明かりを消そうとしたタイミングだった。すぐ傍で寝転がっていた彼女が唐突にそんな風に口にするから明かりを消す手を止めた。
今から眠るという時に何を食べたいのだろうか。とりあえずあれというヒントだけでは流石に予想がつかない。

「あれとは?」
「ほら、なんかマリオみたいな感じの……」
「マリオ……?」
「えーっと何だっけ?」
「食べ物でマリオのような名前とは……?」
「あーマリオじゃなかったかも。うーん、……あっあれだ!マリとトッポ」
「……何ですか、そのお笑い芸人みたいな名前は……」

彼女はふざけているように思えるが、その表情を見るにおそらく本人にその自覚はなく至って真面目なのだろう。
そして、その発言から彼女が何のことを言っているのか察しがついてしまう自分に苦笑してしまう。
彼女が言いたかったのは、間違いなくマリトッツォのことだ。それを彼女は何をどうしたらそんな名前で覚えるのかマリとトッポと自信に満ちた顔で告げてくるのだから、じわじわと笑いのツボが刺激されてしまう。

「ナナミン?」

耐えきれずに笑ってしまった。
口元を手で覆うようにして、笑いを抑えようとしているのだが我慢しようとすればするほどじわじわと効いてくる。

「ねえ、何で笑ってるの?」

彼女はいきなり笑い出した私を不思議そうに首を傾けた。

「ねー何で?」

私が何で笑っているのか分からない彼女の頭上には疑問符が浮かんでいる。
なんとか笑いを落ち着け、咳払いを一つ。

「すみません。アナタの発言がツボに入りました」
「マリとトッポ?」
「……はい」
「えっでも、そういう名前だよね?」
「いえ、違います。アナタが言いたかったのはマリトッツォでしょう」
「マリトッツォ……?」

いまいちぴんときていない様子の彼女に、ナイトテーブルの上に置いていたスマートフォンを手に取ると、マリトッツォを検索して画像を見せた。

「あーこれだ!これ食べたかったの!……でも、何で私マリとトッポだと思ったんだろ……」

それはこちらが聞きたい、と言いかけたが再び笑いが込み上げてきて堪えられずくつくつと笑いを漏らしてしまう。

「もーナナミン笑い過ぎ……!」

恥ずかしさが籠ったような少しだけ怒った顔をする彼女に謝罪をする。

「明日、帰りに買って来ますよ」

そう言えば彼女の表情はすぐに笑顔へと変わった。
確か明日の任務先の近くに以前立ち寄ったことがある美味しいパン屋があったはずだ。あそこであれば、きっとマリトッツォも売っているだろう。
甘いものが好きな彼女はたくさん食べるだろうから多めに買ってこようと思いながら、ベッドサイドランプの明かりを消した。


2021/08/29

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