仲間からの着信に出た俺は、伝えられた内容に危うくスマホを落としそうになった。
彼女が、名前が俺に恨みを持つ奴らに攫われた。その事実に目眩を覚える。
こういうことが起こる可能性を予想していなかったわけではない。恐れていたことが現実となってしまった。
ストリートギャングのボスの女が狙われるということはあり得ることだ。というと誤解が生まれそうなので、一応誤解がないように言っておくが、彼女は今回ストリートギャングのボスの女だと勘違いされた、が正しい。
彼女とは、この前の道案内の続きを何回か続けた後も会う機会があり、友人としての付き合いが続いている。
今まで俺は、危険に巻き込まないように誰か一人に深く関わることはしてこなかった。彼女にもそうするはずだった。だが、それは無理だった。あの時、彼女に一目惚れをしてしまった瞬間から彼女のことをもっと知りたいと思った、仲良くなりたいと思った、何より側にいたいと思ってしまった。
俺のその甘さが彼女を危険に晒してしまっている。自分の甘さに腹が立つ。彼女一人守れないで何が側にいたいだ。これじゃあ、彼女の側にいたいなどという資格はないじゃないか。
仲間から聞いた彼女が連れて行かれたという廃ビルにバイクを飛ばす。仲間達にもその廃ビルに向かうように指示してある。
道中、頼むから無事でいてくれと神に祈らずにはいられなかった。

**

廃ビルに着いたのはどうやら俺が一番乗りらしかった。
とりあえず彼女が連れて込まれていそうな部屋を片っ端から探す。大体のドアは開いてある部屋が殆どだが、一箇所だけ閉まっている部屋を見つけた。近付いてみると中から何かを殴った様な鈍い音が聞こえる。
嫌な想像が脳裏に浮かぶ。瞬間、俺は目の前のそのドアを蹴破った。

「名前!」

ドアが倒れ俺がその部屋の中を視界に映すのと、鈍い呻き声と共に男が一人彼女に蹴り飛ばされるのは同時だった。

「え?ショーター!?」
「……は?え?」

一瞬見間違いかと思い目を疑ったが、そうではないらしい。これは現実だ。
よく見てみれば、彼女の周りに数人の男達が転がっていた。見事に全員伸びている。

「こ、これ……お前がやったのか?」
「ええ、そうよ。だから言ったでしょ?私強いって」

そうだった、思い出した。出会った時に確かに彼女はそう言っていた。
しかし、彼女が強そうに全く見えないのと実際に彼女が言う強さを目の当たりにしたことはなかったため実感を持てなかった。

「本当だったのか……」
「信じてなかったの?私、あなたに嘘は言ってないわよ」

心外だと言わんばかりの表情をする彼女。見たところ乱暴された痕跡はない。安心して思わず笑いが漏れた。

「はは、お前が無事でよかったぜ」
「このくらい平気よ」
「怪我してないか?」
「ええ、大丈……」

言い終わる前に彼女に近付いて抱き締めた。

「ショーター?」
「心配した」

彼女を抱き締める腕に力が入る。本当に無事でいてくれてよかった。
俺の腕の中にすっぽり収まっている彼女は、思っていたより小柄で華奢に感じた。思えばこんなに彼女を至近距離で感じることは初めてだ。と、そこで俺ははっとする。無意識のうちに彼女を抱き締めてしまったが、嫌がられていたら申し訳ない。
彼女に回していた腕を離した。

「わ、悪ぃ……」
「ううん、平気。助けに来てくれてありがとねショーター」

ふわりと笑う彼女に見惚れた。
嫌がられてはいないことにほっとしたのもあるが、その笑顔を見てやっぱり俺は彼女の側にいたいと改めて思った。

**

そんなこともあったなあ、と目の前でカフェメニューを手にしチョコレートパフェとイチゴパフェのどちらにしようか先程から真剣に悩んでる彼女を見る。
今では彼女が腕が立つということは知られているため、彼女が狙われることも少なくなった。それでもたまに彼女を狙ってくる奴はいたが、全て彼女に返り討ちにされている。
彼女は強い。強いがその強さを頼りにして付き合っているわけではない。
何故、彼女が強いのか気になって聞いたことがある。
説明するには、まず彼女の家の話をする必要がある。彼女の家はマフィアである。父親が現在のファミリーのボスであり、その娘である彼女は何かと危険に巻き込まれることもあるだろうからと自分の身は自分で守れるようにと幼い頃から仕込まれたのだという。
聞いた時は驚いたが、彼女はこの話をし終えた後にやっぱり嫌いになった?かと口にした。その表情が寂しそうで、おそらく過去にそういうことがあったのだろうと想像がつく。
そんなことはないと伝えた時の彼女の安心した表情は今でも忘れられない。
もしも、彼女が今の強さを幼い頃から仕込まれていなくとも俺は彼女と距離を置くことは出来なかっただろう。そこに、強さや弱さは関係ない。
俺は彼女、名前・ロレンツィーニに惚れたのだから。何かあれば彼女のことは絶対に守ると決めている。
目の前の彼女は未だチョコレートパフェとイチゴパフェのどちらにするか決めかねているようだ。その姿が可愛くて思わず口元が緩む。

「どっちも頼めばいいじゃねぇか」
「えっ!?」
「半分こしようぜ」
「うん!」

嬉しそうに笑う彼女に俺もつられて笑った。


2019/01/27

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