コンコン、とノックされたドアを開けるとそこにいたのは彼女、ではなくサンタクロースだった。
正確にはサンタクロースの格好をした彼女だ。
今日は、十二月二十五日、クリスマスである。彼女は今日の夕方に俺の家に来る約束をしている。現在の時刻は午後一時過ぎ、約束の時間にはまだ早い。時間を間違えるにしても早すぎる。
そして、彼女は何故サンタクロースの格好をしているのか?クリスマスなのだからといえばそうなのだが、俺が気になるのは彼女のそのサンタクロースの格好が本物のサンタクロースだということだ。
普通彼女がサンタクロースの格好をしているといったら、想像するのは女性用のサンタクロースの格好、ワンピースやスカート姿だろう。なのに、俺が何故彼女を本物のサンタクロースの格好と言ったのかといえば、絵本等に出てくるサンタクロースの格好そのものだったからだ。ちゃんとつけ髭までつけている。
しかし、そういった格好をしたところで彼女だということは一目瞭然である。あと、可愛い。彼女がどんな格好をしても可愛いと思ってしまう俺は重症かもしれない。欲をいえば、サンタクロースのワンピース姿の彼女はめちゃくちゃ見たかった。

「メリークリスマス!」

開口一番クリスマスのお決まりの台詞を言う彼女に俺もメリークリスマスと返す。
失礼、とずるずるとやけに大きい袋を引きずり俺の部屋へと入ってくる。その袋にはプレゼントが入っているのだろうが、それにしてはやけに大きくて重そうだ。

「で、何やってんだ?名前」
「えっ?」

彼女の名前を呼ぶと驚いた様に眼を見開いた。その瞬間、彼女の手からずるりと袋が滑り落ちた。
まさかとは思うが、彼女は正体がバレているとは予想していなかったのだろうか。

「な、何を言っているのかね?わしはサンタクロースじゃよ」
「いや、名前だろ……」
「わしはサンタクロースなのじゃ。フィンランドからさっき着いたばっかりのな!いいね?」
「……」
「いいね?」

圧が強い。
何が何でも彼女は、サンタクロースを貫きたいらしい。何故そんなにサンタクロースに拘るのかは分からないが、仕方がないのでサンタクロースとして接することにしよう。

「分かった分かった。なあ、でもサンタクロースって普通こんな時間に堂々とやってくるもんじゃねぇだろ?」
「それは古い風習じゃよ。今時のサンタクロースは、サンタクロースの好きなタイミングで直接プレゼントを渡すのじゃ」

サンタクロースの好きなタイミングでって、自由すぎるだろ。
呆れていると彼女、いや、サンタクロースは先ほど手から滑り落ちた袋を持ち上げて俺に渡してきた。

「重いから早く受け取るのじゃよ」
「お、おう」

サンタクロースから袋を受け取ると、確かにずしりと重い。
サンタクロースが持っている袋にはプレゼントが入っていることは知っているが、一体これは何人分のプレゼントが入っているのだろうか。

「メリークリスマス。それはいい子にしていた君へのプレゼントじゃ」
「えっこれ全部か?」
「勿論じゃよ。サンタクロースは太っ腹なのじゃ」

全部俺へのプレゼントだった。
いい子にしていたと言うが、ストリートギャングのボスにいい子もないだろう。けれど、目の前のサンタクロースがそう言うのだから素直に受け取っておこうと思う。
受け取った袋には、一体何が入っているのかと中を覗いて見れば大量のお菓子が入っていた。それも何やら高級そうなお菓子の箱が多い。

「一応言っておくがの、そのプレゼントは君が一人で全部袋から出して確かめることじゃ。いいね?」
「ああ」
「よしよし、いい子じゃ」

サンタクロースは俺の頭を撫でたかったらしいが、サンタクロースの身長では背伸びをしたところで俺の頭には手が届かない。
背伸びをしてなんとか俺の頭を撫でようとする様は可愛らしいが、それをずっと見ているわけにはいかないので屈んでやればサンタクロースはポンポンっと俺の頭を撫でてくれた。

「じゃあ、そろそろサンタクロースは失礼するよ。これから、他のいい子のみんなにもプレゼントを渡しに行くのじゃ」
「そりゃ忙しいな。手伝うか?」
「大丈夫じゃよ。これもサンタクロースの仕事なのでね」

そう言って部屋から出て行こうとしたサンタクロースは、何かを思い出した様に足を止めた。

「あっそうそう、約束の時間にまた来るからもうちょっと待っててね?ケーキ、持ってくるから楽しみにしてて。それじゃあ、またね」
「おう、またな」

普通に返事をしてしまったが、サンタクロースはどこいったんだ?
サンタクロースだと貫いてきたのは一体どうしたのか。普段の彼女の口調に完全に戻っていた。
全くそういうところが少しだけ抜けているというか、おかしくて思わず笑ってしまう。
サンタクロースが去った部屋で、プレゼントされた袋の中身を一つ一つ袋から出していく。その中に一つだけお菓子ではない箱があった。靴の箱だ。蓋を開けて見ると、そこにはナ◯キのスニーカーが入っていた。
俺はこのスニーカーに見覚えがある。この前、彼女とデートした時に店頭に並んでいるのを見かけた。かっこいいデザインで気に入ったのだが、その時丁度持ち合わせがなかったため購入を見送っていたのだ。
彼女がそれを覚えていてくれて、こうしてクリスマスプレゼントとしてわざわざサンタクロースになってプレゼントしてくれたことが素直に嬉しい。
そういえば、彼女の元にはサンタクロースは来るのだろうか?
サンタクロースとして俺へプレゼントを渡しにきてくれた彼女に、今度は俺がサンタクロースになろうと思う。
彼女は、サンタクロース姿の俺を見てどんな反応をするのだろうか?きっと驚くだろう。そう思うと、自然と口角が上がった。
彼女へのプレゼントは既に用意してある。足りないものは、サンタクロースの衣装だ。彼女が再びこの部屋に来るまでにはまだ時間がある。
俺はサンタクロースの衣装を買いに部屋を出た。


2018/12/26

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