編入した先にいたのはパンダでした。
あだ名がパンダなのではない。文字どおりにパンダである。
動物園以外で実物を見るのは初めてだ。いや、学校の教室でパンダを見るのは初めてだと言った方がいいのかもしれない。
編入先の広い教室に数個しかない机と椅子のうちの一つに座っているパンダのインパクトといったら、今まで生きてきた中で受けたそれのトップ三には余裕でランクイン決定だ。おめでとう。
担任の先生が他のクラスメイトは任務で出かけていて今日は不在だということ私が何故編入してきたか等の説明をしているが、私の耳には一切入ってこなかった。どうやっても教室のパンダに意識が向かってしまう。どこからどう見ても紛うことなきパンダである。
しかも、担任の先生もパンダのことをパンダと呼ぶのだ。パンダにも自己紹介をされたがパンダと名乗ってきた。
見た目そのままの名前に驚いたが、きっと彼は今までも自己紹介をしてそういう反応をされたことが多々あったに違いない。ここで私もそれをしてしまったら失礼になってしまう。今日からクラスメイトになるのだ第一印象は大切である。必死で冷静を装い私も自己紹介をした。
いや、待ってほしい。パンダが喋った。日本語を話したのだ。随分とリアルなパンダだとは思ったが、成る程理解した。これは着ぐるみだ。そうに違いない。
授業が終わり、休み時間になった。私は席を立つと、パンダの後ろに回り背中にチャックがないかじっくりと目を凝らして見た。チャックらしきものはない。毛に埋もれているのかもしれない。触れていいかと許可を取ると構わないと言うので、そっと触れてみた。
ふわっとしている手並みは思わず抱きついてみたくなる誘惑を孕んでいる。だが、今はそれが目的ではない。チャックがあるかないかだ。背中の毛をそっとかき分けて探ってみるが、やはりチャックはなかった。

「チャックはねぇよ」

察したのだろうパンダは自らそう教えてくれた。親切である。
着ぐるみの線は消えた。となると、次に考え得る可能性は呪いの影響だ。ここは東京都立呪術高等専門学校である。呪いを学ぶ学校だ。ならばこちらの可能性の方が高い。何故、最初から私はその可能性に気づかなかったのだろう。
きっと彼はパンダになる呪いを悪いやつにかけられてしまったのだ。

「ええーっと、その……あなたにもベ◯のような美女が現れるといいね」

にっこりと笑顔を向ける。
一瞬、パンダがぽかんとした顔をしたように見えた。

「美女と野◯でもねぇよ!」

パンダの渾身のツッコミが教室中に響き渡った。
というやり取りを編入初日にした私とパンダだったが、当日中に私の疑問はパンダが全て解消してくれた。
学年が変わった今となっては、たまに笑い話にされるくらいの思い出になっている。


2023/07/18
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