先生とコーヒー1先生とコーヒー2と同一夢主です。


皿の上に綺麗に盛り付けられたふわとろオムライスを前に名前は目を輝かせていた。
スプーンを手に取りゆっくりとオムライスを一口分掬い取る。
すると、とろりとした卵が掬い取った部分から覗くケチャップライスをすぐに覆い隠してしまった。ふわとろだ、と名前は再び目を輝かせる。
それからスプーンで掬い取った一口分のオムライスをようやく口の中へと入れた。目を閉じ味わうように咀嚼し飲み込むと、名前は三度目を輝かせた。

「先生!すっごく美味しいです!料理まで上手だなんてホントずるいですね!」

向かい側に座る雑賀に名前は笑顔を向けてくる。
名前が雑賀に対してずるいと口にするのは何度目だろう。名前が執行官になり、雑賀に懐いてから何度もずるいと口にしている。なんでもいつも言動等から色々と見抜いてくる雑賀のことがずるいのだという。
雑賀からしてみればずるいのはどちらだと思う。
だいたい、何故雑賀が今目の前で幸せそうに名前が食べているふわとろオムライスを作ることになったかといえば全て名前のせいである。
少し前のことだ。日課のように雑賀のところにやって来た名前は、読んでいた本にふわとろオムライスが出てきたせいでどうしても食べたくなったと口にした。自作しようとしているらしく、どうやったら作れるのか?と雑賀に作り方を聞いてきた。ひととおり作り方は教えたが、そのとおりに名前が作れるとは到底思えない。名前本人は口にしていないが、雑賀から見て間違いなく名前は料理の経験は皆無だ。
このまま好きにさせておけば、後日ふわとろオムライスを作ろうとし見事に失敗した名前が雑賀に泣きついてくることは目に見えている。失敗すればせっかくの材料も無駄になる。結局、最終的に雑賀が名前にふわとろオムライスを作ることになるのだろう。
だったら端から雑賀が作った方が早いと仕方なく作ることになり今に至る。
本人は無自覚なのだろうが、名前には表情や言動、纏う雰囲気からこちらがつい名前を甘やかしてしまうように仕向けてくる力がある。それは名前が懐いた相手であるほど効果が強く、本人の自覚がない分余程ずるいし質が悪い。
この公安局刑事課で名前が特に懐いてるのは言うまでもなく雑賀である。その効果が大いに発揮されるのも雑賀である。対処をしても気がつけばいつものように名前を甘やかしてしまっているのだから到底手に負えない。

「どうにも厄介だな……」

ふいに雑賀が漏らした声に、名前はオムライスを食べる手を止め軽く首を傾げる。

「え、何がですか?」
「お前さんに言っても分からない話だよ」

難しい話なのだと名前は思ったのだろう。ふうん、と気難しそうな表情で軽く相槌を打つと再びオムライスを食べ始めた。
スプーンで掬ったオムライスを口に入れると、途端に気難しそうだった表情が綻んでいく。
幸せそうな表情をしながらオムライスを食べている名前を見ていると、作った料理をこんな風に食べてくれる相手というのは作り手冥利に尽きるな、と感じる。
おそらく今後また同様なことがあれば、名前が食べたいと言った料理を作ることになるのだろうという確信が雑賀にはあった。


2023/04/10
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