◯◯聖杯戦争。その聖杯戦争が何という名称で呼ばれていたのかは覚えていないが、確かに僕はその聖杯戦争に参加をして生きた年代も国も違う妙に気が合う彼女と手を組んでいたことはカルデアに召喚された時点でよく覚えていた。

「散々だったけど、君と手を組んだのは面白かったな」
「それは……何よりです」
「まさか僕が別れがたいなんて思うなんて予想外だ。……またどこかで出会うことがあれば手を組まないか?」
「そうですね。もし、覚えていれば……」

というやり取りを彼女が座に還る前に交わしたことは、その時の場所、空の色、空気の温度等も含めて特に色濃く僕の記憶に残っている。

「あれは覚えてる流れだろ!」

思わずそう漏らさずにはいられなかった。
奇しくもカルデアで再会した彼女はその聖杯戦争のことなど全く何も覚えていない素振りを見せた。
基本的に、以前に参加した聖杯戦争について覚えていないということは分かっている。だが、例外があるというのは話に聞いている。僕自身が例外でもある。
その例外が彼女にも当てはまるかといえば今回はそうではなかったというだけだ。分かっている。が、これは完全に僕の勘なのだが、どうにも彼女は何も覚えていないふりをしているだけだ。こういう僕の勘は当たる。外れたことがない。断言してもいい、彼女は絶対に僕と同じように覚えている。覚えていないふりをして、こちらの反応を面白がっているに違いない。
彼女はそういうことをする人間であることを僕はよく知っている。

「この状況、あの時と似ていますね」

カルデアで再会してから初めて向かった特異点で彼女はそんなことをしれっと呟いた。
状況を説明するとマスターと逸れた僕と彼女は、とある街はずれで周囲をたくさんの敵に囲まれて追い詰められいる。当然、逃げ場はない。
もう一度言うが、彼女と再会して共に訪れた特異点はこれが初めてである。加えて、彼女と再会してから似たような場面に直面したことは一度もない。
似たような場面に出会したことがあるのは、彼女と手を組んだあの聖杯戦争だけだ。
ほらな、僕の勘は当たるんだ。

「やっぱり君、全部覚えてるだろ?」
「さあ?どうでしょうね」

なんて、口の端を少しだけ上げ薄い笑みを浮かべて彼女は惚けた。その表情をする時は、口では曖昧なことを言いながらもその実肯定であるということを僕は知っている。
きっとここを突破して、カルデアに戻った時に彼女は悪びれる様子もなくこう言うんだ。

「素直に私も覚えています……それだと、ふふ……面白くないでしょう?」

彼女に言いたいことはたくさんあるが、その前に今はこの四面楚歌と呼ぶに相応しい状況を打破するのが先だ。
見渡す限りの敵、助けは期待しない方がいいだろう。絶対絶命だというのに、自然と口角を上げてしまう僕がいた。
何故なら、彼女の言うあの時と似ているこの状況を再び彼女と突破出来る確信が僕にはあるからだ。


2023/04/10
イベ前に書けば出るので書いたものです。無事呼べました。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -