三、四人の男たちに刀を突きつけている名前が視界に入ってきた時には光秀は目を疑った。
思わず二度見をしたが見間違いではないらしい。
急いで今にも斬りかかりそうな名前を止めに入ると男たちと名前を引き離した。男たちは完全に名前の剣幕に押されていたせいもあり、光秀に止められる名前を尻目に慌てて逃げて行った。
それから、なんとか名前を宥めてみたのだが未だ憤りは収まらないようだ。既に短くはなくなった名前との付き合いの中で、相手に刀を突きつけるほど怒りを露わにしているところは初めて見る。
名前は信長の親戚である。かといって似ているかといえば見た目等は全く似ていない。だが、先程の名前の普段からかけ離れた纏う空気を目にして光秀は名前がその血筋であることを改めて思い知らされた。

「名前殿……何故、あの様な真似をなさったのですか?」
「……だって、光秀の悪口言ってたから」
「はい?」
「光秀は何も悪いことしてないのに、影で悪口を言っていたのが気に食わなかったから全員斬り捨てようと思ったの!悪い?」

光秀は名前の予想外な答えに思わず疑問系で返してしまったのだが、名前はそうではなく
よく聞こえていなかったと判断したらしい。先よりも大きな声ではっきりと捲し立てた。
悪いか悪くないかと問われれば、名前の行いは褒められることではないのは確かである。あれは本気だった。光秀があと数秒止めに入るのが遅れていたら、名前は彼らを斬り捨てていただろう。
しかし、名前が何に対して怒りそういう行動に移ったのかといえば光秀を想ってのことである。信長曰く誰かに懐くのは珍しいという名前が、今回のように誰かのために怒りをあらわにする相手が一体何人いるのだろう。その中の一人に自分が含まれていることに光秀は嬉しさを感じてしまっている。

「いえ、そのお気持ちだけで充分でございます」
「……」
「多勢を相手にしているのを目にした時は焦りましたが、名前殿がご無事で安心いたしました。万が一、何かあったらと…………名前殿?」

名前の真っ直ぐな視線を感じ光秀は言葉を止めた。
つい先程までの怒気はどこへいってしまったのか。じっと光秀を見つめてくる名前からそれは既に消え失せてしまっている。

「心配した?」
「はい」
「でも、私、あいつらにしてやられる程弱くはないのよ」
「存じております」
「……それでも心配?」
「はい」
「ふふ、そう。心配してくれるのね」

嬉しそうな笑みを浮かべる名前を前に光秀はようやく胸を撫で下ろした。
名前が決して弱くはないことは光秀は知っている。幼い頃から最低限自分の身は守れるようにと鍛えられたのだと名前本人からも聞いたこともある。実際、名前が稽古中に相手を叩きのめしているところも見たことがある。
もしも、名前があの手の輩を実際に相手にしたところでやられることはないのだろう。
それでも、名前に何かあったらと光秀が心配をしたのは事実で、今後も今回のようなことがあれば変わらずに心配をしてしまうだろう。
出来れば自分から首を突っ込んでいってほしくはないが、名前はまた同様のことがあったのなら大人しくはしていないのだろうな、と光秀は思った。


2022/09/26
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