突如発生した微小特異点は、たいしたことはないという事前情報だった。
総合的に見れば確かにそうなのかもしれないが、何しろそのラスボス的な人物が非常に厄介であった。
流石は、あの晴明の弟子というだけのことはあると道満は改めて思った。普段、表情が乏しく何を考えているのか分からない名前が敵に回った時の恐ろしさと面倒くささを身をもって体験した。
出来ることならば、もう二度と敵にはしたくないとすら思う。
そんな道満の気も知らず、途絶えていたカルデアとの通信が一瞬だけ通じた際にカルデア側の名前は、その通信を聞いていた誰もが予想だにしなかった内容を言ってのけたのである。

「あーあー、道満殿聞こえますか?聞こえますね?道満殿にもおやつのドーナツ取っておいたので、ちゃんと帰ってきてくださいねー」

瞬間、誰も何も言葉を発せなかった。
少しの沈黙の後、道満が真っ先に声をあげたがその時には既にカルデア側の名前との通信は切れてしまっていた。
その後、微小特異点で敵に回った名前を倒し無事にカルデアへと道満は戻って来たのだが、ドーナツ云々と言っていた張本人は名前用にあてがわれている部屋で呑気に昼寝をしていたのである。室内は、名前の術で西洋のどこかの古城を思わせる豪華な一室へと変えられていた。豪華な天蓋付きの広いベッドの隅で丸まって眠っていた名前の側に道満はわざとベッドが揺れるように勢いよく腰をかけた。
その揺れで名前は目を覚ます。起き上がり、側に座っている道満を目にするとごく僅かに表情を緩めた。

「あ、おかえりなさい道満殿」
「……」
「敵になった私はどうでした?楽しかったですか?」

淡々と聞いてきた名前に、道満は溜息を吐きそうになったが無理やり呑み込んだ。

「そうですねえ……二度と、二度と……!敵にはしたくないと、そう思いました」
「そうですか。道満殿にそう言っていただけるとは嬉しいですね」
「……」
「あ、約束のドーナツですか」

ちゃんと取ってあるんですよ、とベッドから降り取りに行こうとする名前の腕を道満は掴んだ。

「名前殿!」
「はい」

特に驚いた様子もなく、至って普通に道満へと視線を向けてくる名前は一体何を考えているのか。いつもと変わらない無表情の名前からは読み取れない。

「冗談ではなく拙僧は本気で言っているのです」
「……」
「茶化さないでいただきたいのですが」
「茶化してるつもりはないです」
「だとしたら、質が悪い。やはり、名前殿はあやつの弟子ですな」
「まあ、実際そうですし。今更じゃないですか」

やはり名前の表情は微動だにしない。
暫くお互いに声を発さず、じっとただただ見つめ合っていた。
名前の深い茶色の瞳は目の前にいる道満を映してはいるが、本当に彼女の見ているものは道満であるのかは分からない。おそらくは、これ以上見つめ合ったところで分かるはずもないのだろう。
諦めたように道満は、名前から視線を外すと一息吐いた。

「ドーナツ……」
「はい」
「いただきます」
「分かりました」

未だ自身の腕を掴んだままの道満の手を名前はゆっくりと振り解くと、ドーナツを取りに食堂へと向かうべく自室を後にした。
一人残された道満は、名前によって西洋風に変えられた室内を見回してみるもそこから彼女の意図等を読み取ることは出来なかった。


2021/12/04
道満実装一周年おめでとう。
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