オレには二つ歳上の幼馴染がいる。
団地の隣の部屋に住んでいて、親同士が仲が良かったこともあって小さい頃からよく知っている。一緒にいる時間が長かったからか、いつからオレにとって幼馴染が特別な存在になっていたのかは定かではない。
そんな幼馴染は、昔からおっとりとした性格で悪く言えば鈍臭くて危なっかしい。それ故か幼馴染は、子供の頃から虐められたり変なヤツに絡まれることが多かった。
今日も、下校時に運悪く不良共に絡まれてしまったらしい。鈍臭い幼馴染は、逃げようとしても足が遅いからすぐに捕まる。もちろん、喧嘩が強いはずがない。
泣きそうになっていた幼馴染にしつこく絡んでいた不良共を蹴散らし、家までの帰り道を一緒に歩いているところで現在に至る。
半歩後ろを歩く幼馴染は、元々不良が苦手なこともあり怖かったのかオレのブレザーの裾を軽く掴んだまま離さない。
オレが少し歩くスピードを早めたらきっとこの手は簡単に振り解けてしまうだろう。それをしないのは、幼馴染とのこの距離感が嫌ではないからだ。

「千冬」

沈黙していた幼馴染がオレの名前を呼ぶ。
名前を呼ばれるのも幼馴染の声も昔から聞き慣れているはずなのに、今日はそれがやけに胸を騒つかせる。そうさせるのは自分でこの距離を保っておいてあれだが、幼馴染との距離の近さのせいにした。

「ありがとう」
「……おう」
「千冬は強いね」
「まあな」
「私も強くなりたい。……護身術でも習おうかなー」

幼馴染の発言に思わず溜息が漏れる。

「名前には向いてねぇよ」

何度も言うが、幼馴染は鈍臭い。
体育の成績は二以上を取ったことがないと以前本人が言っていた。だろうな、と思う。昔から側で見てきて、幼馴染が運動音痴であることはよく知っている。
それも理由の一つではあるが、何より性格的に向いていない。優しすぎるのだ。オレが喧嘩して怪我をしているのを目にした時も、泣きそうな顔をして心配してくる。幼い頃は泣いていた。
幼馴染が誰かと喧嘩をしているところなんて見たことがない。ここでいう喧嘩とは殴り合いの方だ。口喧嘩程度はオレともしたことがある。といっても、口喧嘩も弱いのが幼馴染なのだ。

「無理しなくていいだろ」
「でも……いっつも千冬に迷惑かけちゃうし」
「別に迷惑だって思ってねぇよ」

本当だ。迷惑だったら助けていない。
幼馴染のことはオレが守ると正確な時期は覚えていないがそう決めた。決意はしたが幼馴染に伝えたことは今までなかった。タイミングを逃していると言えば、そのとおりで否定は出来ない。
最近は少し焦っている。二つ上の幼馴染は、あと数ヶ月したら高校へと進学してしまう。やっと同じ中学生に追いついたと思っていたのに、すぐに幼馴染は遠ざかってしまう。こういう時、二つという歳の差を強く見せつけさせられる。
そして、おそらく幼馴染はオレのことを弟のようにしか見ていない。何度かそれとなくアピールをしてみたことはあるが、気づいていないように思う。
幼馴染が高校へ行ってしまう前に少しは意識をしてほしい。伝えるなら今がその時なのかもしれない。今日を逃したら次に機会が訪れるのはいつになるか分からない。
不自然にならないように、一息吐いて気持ちを落ち着かせる。

「なあ……」
「うん?」
「……名前のことはこれからもずっとオレが守ってやる」

半歩後ろを歩いている幼馴染の顔は見えない。

「千冬」

幼馴染がオレの名前を呼ぶまでは、ほんの数秒だったのだろうが、オレには数分のように長く感じた。

「えへへ、ありがとう」

顔は見えなくても、幼馴染がよくする緩んだ笑みを浮かべていることは分かる。
照れ臭さからぶっきらぼうに返事をして無意識に少し歩くスピードが上がった。離れるかと思っていたオレのブレザーの裾を掴んだままの幼馴染の手は離れない。
オレはずっと幼馴染に少しは意識をしてほしかったが、もしかしたら既に届いていてこれが答えなのかもしれないと思った。


2021/09/27
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