攘夷戦争後、幼なじみ達とは別の道を歩んだ私は各地をアルバイトをしながら転々と旅をした。
ある程度、持ち金が貯まったのでそろそろ定住し静かに落ち着いた暮らしをしようとこの度、江戸に引っ越して来た。
そんなに広くはないが、一人で暮らすには十分な部屋を借り家具を揃え、私の新生活がスタートしたわけである。
うきうきだった。そりゃあ新生活なのだから浮かれる。スーパーから家までの帰り道に、鼻歌を歌いながらスキップをしたいくらいには気分が高揚していた。
それも三日で終わることになる。まさかたった三日で、私の夢見ていた静かに落ち着いた暮らしが終焉を迎えるとは全く予想していなかった。

江戸に越して来て、三日目に何が起きたのかというと偶然に銀時と再会した。銀時とは、村塾に通っていた頃からの幼なじみである。
その銀時に、コンビニにジャンプを買いに行ったらばったりと出会した。私の静かに落ちついた暮らしに幼なじみとの再会は含まれていない。再会したら、静かとはかけ離れた暮らしになるに決まっているのだから会いたくはなかった。
だから、全力で逃げた。銀時が何かを言おうと口を開きかけたところで全力で逃げた、はずだった。が、無理だった。普通に捕まった。
その後、銀時は私の家に度々遊びに来るようになった。いつの間にか冷蔵庫には苺牛乳が常備されるようになっていた。

次に桂と再会した。
銀時から江戸に私がいると聞いて、わざわざ会いに来てくれたらしい。ペンギンのような不思議な生物を連れて私の名前を呼ぶ桂を見た時、全力で逃げたがやはり無理だった。捕まった。
攘夷志士である桂と再会して、私に何かいいことがあるだろうか。
ことあるごとに桂は私に攘夷志士の勧誘をするようになってしまった。やめてほしい。
私の望む静かに落ちついた暮らしからまた遠ざかってしまった。

今度は真選組に捕まった。
先日、桂と話しているところを目撃されていたらしい。事情聴取だと真選組の屯所に連れて行かれた。
長時間に及ぶ事情聴取の末に、誤解は解けたが何故か話しているうちに妙に仲良くなってしまった。それにしても、江戸の警察は随分と騒がしい人が多いと思った。
その後、ゴリラではなかった近藤さんに恋愛相談をされることが多くなったり、たまたま入った定食屋さんで土方さんにマヨネーズがたっぷりと乗った土方スペシャルを勧められたり、仕事をサボっている沖田くんの暇潰しに付き合わされるようになったり、パンを買いに行った先で山崎さんにあんぱんを勧められたりするようになった。
どんどん静かに落ちついた暮らしから遠退いていっている。

何事もない日はそう長くは続かず、ある日帰宅したら私の家の隣に一人乗り用の宇宙船が刺さっていた。
その宇宙船から笑いながら出てきた辰馬を見て、他人のふりをしようとしたのにやはりあっさりと捕まってしまった。
桂から私が江戸にいると聞いて会いに来たらしい。どこかの星で買ったという菓子折を持って来てくれたのでありがたく受け取っておくことにした。辰馬が帰った後で、菓子折の箱を開けてみると何やらおぞましい色をしたお菓子とは程遠い何かがかすかに動いていたのでそっと箱を閉じた。
辰馬は、地球の近くに来たからとたまに遊びにやって来るようになったが、その度に宇宙船を周囲の建物に突き刺すのはやめてほしい。
江戸に越して来てから、静かに落ちついた暮らしは全く出来ていない。

そうだ、引っ越そうと思った。
住むのならやはり都会がいいと江戸に引っ越して来たのが間違いだったのだ。この際、静かに落ちついた暮らしが出来そうなところならどこでも構わない。
善は急げと、我が家にはネット回線を引いていないため、引っ越し先を探しにインターネットカフェに行った。始めこそ候補地をいくつか検索していたが、気づいたら可愛い動物の画像やら動画を見るのに夢中になっていた。疲れているのもしれない。
結果、引っ越し先を見つけられないままインターネットカフェを後にした。それでも何故だか妙に満たされたような気分になっているのが不思議である。可愛い動物を見たことによる癒し効果だろうか。
自宅までの帰り道にコンビニに寄り、目に入った新作スイーツを購入し浮き足だって歩いていたら、久しぶりに聞くよく知った声で名前を呼ばれた。
確認するまでもなく、誰が私を呼んだのかはすぐに分かったのでそのまま逃げた。が、やはり無理だった。すぐに捕まった。

「久々だってのに逃げるなんざ随分じゃねェか?なァ名前」

高杉晋助、彼もまた桂と同じく攘夷志士である。しかも過激派と言われている。
そんな相手と話しているところを真選組に見られればまたあの長い事情聴取をされるだろう。勘弁してほしい。
私はただ静かに落ちついて暮らしたいだけなのに、江戸に来てから何故こうも厄介な人物とばかり出会すのか。

「う……もうやだ江戸やだ引っ越したい」

思わず口から本音が漏れる。

「あ?何だ引っ越し先探してんのか。なら、いいとこがあるぜ」

絶対に私にとっていいところではない。
確信があった。逃げたかった。でも無理だった。
高杉に有無を言わさず連れて行かれた先は鬼兵隊のアジトだった。

「何でこうなる?」
「江戸にいたくなかったんだろ?ならいいじゃねェか」
「……」
「おい、どうした?」
「い……いいわけあるかー!!」

私の叫び声が鬼兵隊のアジトに響き渡った。
隣にいた高杉は一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には微笑を漏らすと幼い頃によく私を慰める時にしたように頭をポンポンと軽く撫でてきた。

「まあ、落ち着きな」
「……」
「ここに来たからにはただで帰すにはいくめェよ。諦めるんだな」

高杉のその言葉を聞いてようやく理解した。
始めから私をここに連れて来るために、高杉は私のところに現れたのだ。昔からこういうことをするやつだったことを思い出した。
どうやら、私の静かに落ちついて暮らしたいというささやかな夢を叶えるのは難易度が高いらしい。


2021/01/25
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