背中に斜めに走る大きな傷痕。
消えることのないだろうそれに高杉は唇を落とした。
私を抱く度に同じことを繰り返す高杉は、おそらく未だこの傷のことを引きずっている。
私のこの傷痕は、攘夷戦争時代に高杉を庇った時に負った傷だ。高杉の背後から斬りつけようとしている天人が視界に入った時、声を上げるよりも先に勝手に身体動いていた。
私がそうしたくて負った傷である。後悔はしていない。だから高杉が気に病む必要はない。何度も何度もそう言っているのだが、そうもいかないらしい。
再度、傷痕に口付けられた。横になり後ろから私を抱き締めている高杉の腕に少し力が入ったのを感じる。

「なァ、これじゃあ水着になりづれェか」

いきなり何を言い出すのだろう。
過激派攘夷志士として指名手配をされている人間が海にバカンスにでも出かけるつもりなのだろうか。高杉の台詞から、当然のように私もそこに付き合わされるのは決定していることが予想出来る。
もう少し指名手配されている自覚をもっと持ってほしいところだ。そう言ったところで、高杉が素直に聞き入れるはずはないのだろうが。

「別に水着を着る予定はないよ」
「海に行ったら着るだろ」

やはり海に行くつもりだったらしい。

「でも、必ず着る必要はないでしょ」
「着ろよ」
「え、何?そんなに私の水着姿が見たいの?」
「ああ」

即答された。
そういえば今年は、大事な会合と夏祭りの日付が被っていて夏祭りには行けなかったことを思い出した。だから代わりに海に行きたくなったのだろう。
高杉が祭り好きなのは知っているが、祭りに行けなかったから海に行こうとする指名手配犯なんて彼以外にいるのだろうか。先も言ったが、やはりもう少し指名手配をされている自覚を持ってほしい。

「名前と海に行きてェ」
「そんなに?」
「ああ」

少しの沈黙。きっと何かを考えているのだろうと思った。

「そうか……俺たち以外誰もいない海に行けば問題ねェか」
「え、当てがあるの?」
「どうにかなんだろ」

どうやら海に行くことは確定しているらしい。
こうなると絶対に近いうちに行動に移すことを私は高杉との長い付き合いの中で知っている。
私たち以外に誰もいない海、所謂プライベートビーチというやつであるならば警察の目を気にせずゆっくり過ごせるだろう。

「ねえ、高杉」
「何だ」
「水着……着てあげるから高杉も着てよ」
「分かった」

高杉の声に眠気が混ざってきた。
少しの変化にも気付いてしまうくらいには、彼とは長い時間を共有して過ごしてきたことを実感する。

「高杉眠い?」
「ああ、眠ィ」
「寝ていいよ」
「お前も寝ろよ」
「寝るよ」
「名前こっち向け」

私を抱き締めていた高杉の腕が緩む。
素直に高杉の方へと寝返りを打てば、額に唇が落ちてくる。

「おやすみ」
「うん、おやすみ」

擦り寄るように高杉に抱きつくと、再び額に口付けられた。
すぐ側に感じる高杉の体温が心地よくて、今夜はよく眠れる気がする。ゆっくりと目を閉じて、夢でも高杉と会えればいいな、と思っているうちに眠りに落ちていった。


2020/08/18
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