お祭りが好きな幼なじみがもしかしたら来るかもしれない。
そんな予感がして、わざわざ浴衣まで着て祭り会場に足を運んでしまった自分の行動に少しだけ笑いたくなった。
もし、私の予感が外れたらどうやって憂さ晴らししようか、と出店が並んでいる賑やかな場所から少し離れた人気のない場所で考えていたら今ではすっかり聞き慣れてしまった声に名前を呼ばれた。
声のした方へ視線を向けると、片手にたこ焼きが入った容器を持って近付いて来る総悟くんがいた。総悟くんとは、銀時経由で知り合いになり何かと万事屋と関わることが多かったこともあっていつの間にか仲良くなっていた。

「こんな人気のないところで何してんですかィ?」
「人が多くてちょっと酔いそうになったから休憩かな」

私の隣に立つと、手に持っていたたこ焼きを食べ始めた。

「総悟くんは休憩?」
「まあ、そんなところでさァ」

本人が休憩と言っているのだから、深く追求したりするつもりはないがサボりなんだろうなと思った。
きっと今頃土方さんが総悟くんを探しているのではないだろうか。

「名前さん」
「何?」
「まさかとは思いますが、あいつに会おうなんて考えちゃいませんよね?」

あいつ、総悟くんはわざと名前を出さなかったのだろう。出さなくともそれが誰のことを指しているのかは十分に私には分かってしまっている。
真選組には、私があいつと幼なじみであるということは既に知られてしまっている。別に隠しとおすつもりも元々なかったので、知られたからといって何か行動を起こすつもりもない。

「あいつって?」

わざと知らばっくれた。

「惚けたって無駄でさァ。……俺ァあんたを逮捕なんてしたくねェんでよろしくお願いしますよ」
「……」

全て見抜かれている。
分かっていて、わざわざそう忠告する総悟くんの言葉はきっと本心なのだろう。
その時、総悟くんの名前を大声で呼ぶ声が聞こえてきた。

「げ、やべェ、見つかっちまった」

そう言うや否や総悟くんは走ってどこかに行ってしまった。その後を総悟くんの名前を呼ぶ土方さんの声が追いかけていく。これも、すっかりと慣れてしまった日常の一部になっていることに口元が緩んだ。
少しすると、祭り会場から少し離れたこの場所はしんとした静寂に包まれる。この場所は、隣から一人いなくなってしまっただけでこんなにも静かだっただろうか。
ふと夜空を見上げると、すっかりと暗くなってしまった空に星が煌めいていた。あと少しすれば花火が打ち上げられるだろう。

「よォ、久しぶりだな」

背後から、私が待っていた幼なじみの声が聞こえてきた。
緩みそうになる頬を堪えながら一呼吸置いて、ゆっくりと振り返る。

「やっぱり来てると思ってた」

そこには、編み笠を被った幼なじみの姿があった。
自分の予感が外れなかったことへの嬉しさと変わらない幼なじみの姿に安堵する。

「元気そうでよかった」
「お前もな」
「うん」
「ほら、好きだったろ」

唐突に、差し出されたそれは林檎飴だった。
思わず林檎飴と幼なじみの顔を交互に見比べてしまう。
幼なじみである高杉は、過激派攘夷志士として指名手配されている。その高杉がわざわざ出店に赴いて、私に林檎飴を買って来たと言う。
そもそも、指名手配されている人物が祭りに来るというのも問題なのだが、それをやりそうなのがこの高杉という幼なじみであるし、そういう予感をしてしまうのが高杉の幼なじみである私である。
しかし、まさかわざわざ林檎飴を買って来てくれるとは予想外だった。私が林檎飴を好きなことを覚えていてくれたことは嬉しい。嬉しいが、高杉が林檎飴を買っているところを想像してしまうとどうにも笑いがこみ上げてきてしまう。

「あっははは!」
「おい、いきなり何笑ってやがる?いらねェんなら別に構わねェが」

林檎飴を引っ込めようとする高杉を慌てて阻止する。

「待って待って、いる」
「ほらよ」
「ありがと」

手渡された林檎飴に自然と笑みが漏れる。
包装紙をから林檎飴を取り出し、一口口に含むと懐かしい味がして祭りに来ている実感が一層増した。

「美味しい」
「そりゃよかった」
「高杉も食べる?」

差し出してみたが、不要だと首を横に振られてしまった。
そういえば昔から林檎飴を好んで食べていたのは私だけで高杉が食べているところは見たことがない。

「それより、名前……お前真選組と仲がいいじゃねェか」
「え?ああ、総悟くん?」

ぴくり、と高杉の眉が動いたのを見逃さなかった。

「もしかして、気になる?」

確実に、にやにやとした笑みを浮かべている自信がある。
私のにやけきった顔とは対照的に高杉の眉間には皺が深く寄っている。

「…………いや」
「ふうん。まあ、誰かさんに放っておかれるからねー。なんやかんやで顔を合わせる回数が多い真選組とも仲良くなるよねー」
「……チッ」

思いっきり舌打ちをされた。
村塾に通っていた時にも似たようなことがあったことを思い出す。あの時は、たしか村塾に新しく入って来た子と私が仲良くしていた時だったか。
私の幼なじみはあの時から変わらず素直ではないらしい。

「もう少し誰かさんが構ってくれてたら嬉しいんだけどなー」
「…………考えておく」
「お、意外」
「出来ることなら、お前を巻き込みたくねェんだがなァ……」
「え?」
「じゃあな」

ちょっと待って、と声をかける前に足早に高杉は姿を消してしまった。
指名手配されているだけのことはあって逃げ慣れているのか逃げ足は早いらしい。
また一人取り残されてしまった。確実にここに高杉がいた残香だけがより寂しさを色濃くさせる。
手元に残った高杉が買ってきてくれた林檎飴を一口口に含んだ。

「甘い」

私を危険なことに巻き込みたくなくて、高杉が私と距離を置いたことは知っている。
だから、あの時、攘夷戦争が終わって高杉に一緒に行きたいと言った私の前から何も言わずに高杉は姿を消した。けれど、幼なじみだから付き合いが長いからどうして高杉がそうしたのか全て分かってしまう。
その気持ちは嬉しいのだが、私は危険なことでも構わないから巻き込んでほしいのだ。一人置いてきぼりにされるよりも、危険なところでも幼なじみの隣にいたいとそう思ってしまう。

「もう少し話しかったなあ……」

私の呟きとほぼ同時に、一発目の花火が轟音と共に打ち上げられた。


2020/07/06

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