※カルデアに呼ばれている前提


手渡された綺麗な包紙を開けると、中には色とりどりの金平糖が入っていた。
手の上のそれと私にそれを手渡してきた張本人である目の前の光秀様の顔を交互に見比べていると、少しだけどこか照れ臭そうに口を開いた。

「好物だったでしょう」

金平糖、当時の戦国の世では高級品だったその菓子はただの忍であった私が簡単に入手出来るものではない。
私が初めて金平糖を目にしたのは、光秀様に命を助けられ起き上がれるようになった頃のことだった。起き上がれるようになったとはいえ、まだ絶対安静だと医者に言われ日々退屈していたことを侍女から聞いたのだろう光秀様が、少しでも気分転換になればと私にくれたのが金平糖だったのだ。
初めて見る色とりどりの菓子に目を奪われた。キラキラとしたそれは今まで見たどんなものよりも、私の目には綺麗に映った。
一つ、手に取って口へ含んで見ると柔らかい甘さが広がる。こんなに美味しいものは初めて食べました、と感動する私に気分転換になったようで何より、と優しい笑みを浮かべてみせた光秀様は今でも昨日のことのように覚えている。
それから金平糖は私の好物になった。
欲しいものはないか?と光秀様に問われれば金平糖と答えていた。もっと高価な物で構わないと言われたが、私にとっては何より価値のある物だったのだ。
生前、最後に光秀様から金平糖を貰ったのは、私が死ぬ暫く前だった。その後、本能寺の変という歴史に大きく残る出来事を起こした光秀様が、数多くいる部下のうちの忍の一人だった私の好物をこうしてきちんと覚えていてくれたことに私は感動して言葉が出てこなかった。

「名前……?」

不思議そうに私の名前を呼び、気に召さなかったのかと勘違いをしている光秀様に慌てて否定する。

「そうではなくて!嬉しくて……!声にならなかったんです……!」

私の勢いに光秀様は目を丸くした後、ふっと少しだけ微笑んだ。

「あなたは昔から大袈裟ですな」

大袈裟だと言われればそうかもしれない。
そんなつもりはないのだが、結果そうなってしまうのだから仕方がないではないか、と手の上の包紙から金平糖を一つ取って口に含む。
瞬間、昔と変わらない柔らかな甘味が口内へと広がる。懐かしい。生前の光秀様との思い出が脳内で次々と流れていく。それは、数年間という短い期間ではあったが、私にとってどの思い出よりも大切で満ち足りた日々だった。

「美味しい」

口の中で金平糖を転がしながら、思わず漏れた私の声に、それはよかったと安心したように口にした光秀様の声は私の大好きな優しい声色だった。


2020/06/01
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