紅茶派かコーヒー派かといえば、今はコーヒー派だと答える。
どちらも好きだが、一緒に飲む相手によって紅茶派にもコーヒー派にもなれる。
槙島さんと一緒にいた時は紅茶派だった。槙島さんと飲む紅茶は世界で一番美味しかった。
公安局に来てからは、紅茶は飲んでいない。槙島さんと話をしながら紅茶を飲む空間が好きだった。紅茶に浸して食べるマドレーヌが好きだった。
槙島さんと会うことはなくなってしまった今となっては、あの空間もあの紅茶の味も紅茶に浸して食べたマドレーヌの味も遠いどこかへと消えてしまった。
きっと私はもう紅茶を飲むことはないのだろうと思う。
そして、現在はすっかりコーヒー派になってしまっていた。
というのも、雑賀先生が淹れてくれるコーヒーが美味しいのがいけないのだ。たっぷりと入れてくれるミルクと口に入れた瞬間に広がる甘さの絶妙なバランスが素晴らしい。
それを目当てにというわけではないが、私は頻繁に雑賀先生のところに訪れている。最近は、コーヒーと一緒にお菓子類も用意してくれるようになっていた。
今日も私は、執行官の仕事を終えて雑賀先生のところに来ていた。向かい合わせのソファーにそれぞれ座り、その間にあるテーブルの上にクッキーが置かれている。

「このクッキー美味しいです!」

クッキーを食べながら、雑賀先生が淹れてくれたコーヒーを飲む。
他愛のない会話をしながら過ごすこの時間が、今の私にとっての至福のひと時になっている。

「もしかして先生、私がクッキー食べたいなーって思ってたの知ってました?」

何気なく思ったことをクッキーを食べながら口にすると、それは見事に肯定された。
初対面の時から、雑賀先生には話しをしていないところまで色々と見抜かれている。何でも、観察して分析することで分かると言っていたが、私にはよく分からなかった。
結局、いつもいつも私ばかり雑賀先生に見抜かれていて、私は先生に色々なことをよく知られてしまっている。

「……先生ばっかりずるいです」
「何がだ?」

私が何がずるいと思っているのか、おそらく気付いていてわざとそう尋ねてきている雑賀先生は本当にずるいと思う。

「だって先生ばっかり私のことよく知ってるじゃないですか。私は、そんなに先生のこと知らないのに……やっぱりずるいです」

不満を漏らすと、雑賀先生はコーヒーを一口飲んでから私の名前を呼んだ。

「名前」

真っ直ぐに私へと向けられる視線に少しだけどきりとしてしまう。

「俺は、お前さんとこうして話をする時間は悪くないと思ってるがね」
「え……」
「よかったな、これで一つ知れただろう」

そう言って、再びコーヒーを飲む雑賀先生を私はぽかんと気の抜けた表情で見ていることしか出来なかった。


2020/01/13
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