ホウエン地方で旅をしていた時に、一人の幼い少女と出会った。
森の中でスピアーに追いかけられていたその少女の名前は名前という。スピアーを追い払い助けたのがきっかけで知り合った。
少女は、森の近くにある街に住んでいるらしい。その街は旅の途中の修行のために暫く滞在する予定だったこともあり、少女は私がポケモンと修行をしているところに毎日の様にやって来ては楽しそうにこちらを眺めているのだった。
見ているだけではつまらないだろうと、手持ちのポケモン達と遊ばせてやると少女はとても嬉しそうだった。ポケモンが大好きだということがよく伝わってくる。
そんな少女に、ぼくのポケモン達もよく懐いていた。遊び疲れたのかポケモン達に埋もれてぐっすりと眠ってしまった少女とポケモン達を見るのは微笑ましかった。

「わたしもカブさんみたいなポケモントレーナーになりたい!」

目を輝かせて何度もそう口にしていた少女の誕生日に、一匹のポケモンをプレゼントした。

「アチャモだ!よろしくねアチャモ!」

アチャモを前に笑う少女の顔は今で見た中で一番嬉しそうだった。
それから少女はずっとアチャモと共に過ごしていた。流石にぼくの修行と同じメニューをさせるわけにはいかないので、少女とアチャモ用のメニューを考えてそれをこなしていくうちに順調に少女とアチャモは成長していった。
少女の初めてのポケモンバトルは通りすがりのトレーナーだった。まだ幼い少女を甘く見ていたのだろうそのトレーナーは少女とアチャモに惨敗していった。
少女を見てきたぼくだから分かるのだが、バトルにおけるセンスがいい。何より少女のポケモンへの愛情がポケモンをより強くさせ少女自身の強さにも繋がるのだと思った。この少女ならもしくは、チャンピオンにまで上り詰めるのではないだろうか。贔屓かもしれないが、その時ぼくはそんな予感がした。

出会いがあれば当然別れもやってくる。
当初の予定よりも、長くこの街に滞在してしまったがいよいよ街を去る日がやってきた。行かないで、と泣きじゃくる少女に別れを告げるのはこちらも寂しかったが再びこの街へ足を運ぶことを約束した。

「次にカブさんが来た時、わたしもっと強くてかっこいいトレーナーになってるから……!」
「ああ、それは楽しみだな」

そう言って別れた。
街を後にし、暫く歩いて後ろを振り返ると、まだ少女は見送ってくれていたらしく手を振ってくる。随分と小さく見える少女に手を振り返したのが最後だった。
というのも、次にその街を訪れた時少女はいなかったのだ。少女の家族に話を聞けば、アチャモと共に旅に出たらしい。会えなかったのは、残念ではあるがこちらも旅を続けていればいつか会えるだろうとぼくは再びその街を後にして旅を続けた。
そうしている間にも色々なことがあり、チャンピオンを目指していたぼくはもう少しというところでその夢は潰えてしまった。
どうしたら勝てるのか、非道な手段を選択したこともあった。途中で思い直したのは、あの少女のことを思い出したからだ。少女と過ごした
長いようで短かったあの街での思い出がぼくを踏みとどめさせてくれた。
その後、結局ぼくはあの少女と再会することなくガラル地方へ来てジムリーダーをしている。
あの少女のことを忘れたことはない。いつか強くなった少女がここエンジンシティのぼくのジムへと訪れる日が来るのではないかと思っている。
だから、ジムチャレンジの開会式であの少女の姿を目にした時はついにこの日が来たのかと嬉しくなった。
エンジンシティのジムに来るには二つのバッジを手に入れなければならないが、少女なら間違いなく手に入れてこのジムへと足を踏み入れるだろう。

「お久しぶりですカブさん。ホウエンリーグで優勝してここまで来ました!」

ユニフォームを着て、あの頃より大きくなった少女はぼくの目の前に立ってそう言った。
周囲の沢山の観客や声援などまるで気にしていない様な凛とした表情から少女の自信が伝わってくる。

「久しぶりだね名前。君ならいつかここに来ると思っていたよ」

審判からバトル開始が告げられる。
お互いにモンスターボールを投げると、ポケモンが姿を現わした。
彼女が初戦に選んだポケモンはバシャーモだ。あの時のアチャモが進化したのだろう。一目見て大切に育てられていることがよく分かる。
知り合いの少女だからといって手を抜く気はない。本気で相手をする。
私が知っているのは、ポケモンバトルのセンスがいいといっても少し泣き虫でポケモンが大好きなあの少女だ。あれから少女がどのくらい強くなったのか楽しみな自分がいる。



ジム戦に見事に少女は勝利した。
ぼくが想像していたよりもはるかに強く成長していた。あれから、少女は一体どんな旅をしてどんなポケモンに出会って成長してきたのだろうか気にならないと言ったら嘘になる。
少女ならこの先にあるジムへ挑戦しても、いいバトルをして勝ち進んでいくだろう。
少女が勝った証でもあるジムバッジを手渡す。

「カブさん、私……あの時約束した強くてかっこいいトレーナーになれましたか?」

ジムバッジを受け取ると、こちらを真っ直ぐに見ながらそう聞いてくる。
あの約束を覚えていたことに驚いた。

「ああ、なっていたよ」
「よかったあ……!」
「改めて、おめでとう。疲れただろうからあとは、ポケモン達とゆっくりと休むといい」
「はい」
「ああ、そうだ。もし……君がよければ明日になってしまうが、エンジンシティを案内しよう」
「えっいいんですか!?」
「もちろん」
「それと、名前の話を聞かせてくれないか?」
「はい、喜んで!」

話たいことが沢山あるのだと言って、嬉しそうに笑った顔は、ぼくのよく知っている笑顔であの時と変わっていなかった。


2019/11/19
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