妙に懐かれたものだなと思う。
長く美しい金色の髪を揺らしながら目の前に座る少女は楽しそうに笑った。
南蛮のとある国が出身だという少女の名前は名前という。やってもいない誰かの罪を被せられて殺された瞬間にこちらの世界に来ていたのだと言っていた。それ以上のことは知らない。何故なら少女は自らのことをあまり語りたがらないからだ。

「ねえ、もっとコレトーの話を聞かせて?」

名前はよく私の話を聞かせてほしいと言ってくる。
話してやれば目を輝かせ興味津々に聞いている。
何故、そんなに私の話を聞きたがるのかと以前に聞いたことがあった。そうすれば少女は楽しそうに言葉を紡ぐのだった。

「何故って?行ったことがない知らない国出身のコレトーのお話を聞くのって楽しいでしょう。だから私ここに来れてよかったと思うの!」

そう言ってやはり楽しそうに笑みを浮かべる。
私も少女に身の上話をすることが不思議と嫌ではなかったため、一通りの出来事を話して聞かせていた。何を成して、どういう瞬間にここに来たのかも全て。

「コレトーは主君を裏切ったの?」
「ええ」
「ふふ、悪い人なのね。そうは見えないけれど」
「では、どの様に見えると?」
「だって私分かるもの。コレトーは私に悪意がないでしょ?だから悪い人には思えないの」
「偽っているだけやもしれぬとしても?」
「……うーん、コレトーなら別にいいわ。騙されてあげる」

自分に悪意がないから悪い人ではないと思ってしまうその思想が危ういと思った。
悪意などいくらでも偽れるだろう。いくらでも隠せるだろう。そういう人間は沢山いる。
この少女は危うい。騙されて都合のいい様に扱われ不要になれば処分される先しか見えない。
ここでそういう先が待っているのかは分からないが、元いた場所ではやってもいない誰かの罪を被せられている。
本人は気付いていないのかもしれないが、少女のよく知る誰かの都合のよい様に扱われた結果だったのだろう。
だからなのか私はこの少女のことを放っておくことが出来ないでいる。何かと世話を焼いてしまう。
突き放すことは簡単だろうがそれが出来ないのだ。
少女は主にこちら側にいるが、義経殿同様に好きにして構わないと言われているらしい。たまに、遊びに出かける様に漂流者側に出向いて行っているのを見かけたことがある。
戻って来た時に、特に怪我等はしていないことを確認しては少なからずほっとしてしまう自分がいることに呆れてしまう。
願わくば少女の選択がこちら側であればいいと思ってしまうのだ。

「ねえコレトー、黒王様には私の好きにしていいって言われているんだけれど……どっちにしたらいいと思う?」
「……どちらにしようとも名前の自由かと」
「ふうん……」

考える様に腕を組んで首を傾げている。
傍目には考えこんでいる様に見えるが、始めから少女の中で答えは決まっていた様に思う。

「決めた、どっちも選ばなーい!」
「何と?」
「だからどっちも選ばないの!私はね、コレトーを選ぶわ。何があっても私はあなたの味方でいる」

驚く私に悪戯が成功した様な笑みを向けてくる目の前の少女が、漂流者側を選択しなかったこと、そして、予想外な答えを導き出してきたことに安堵している私がいた。



私がどうして漂流者側、黒王様側のどちらも選ばずに、コレトーを選んだのかというと似ているからだ。
皆、私を殺そうとしてくるのに唯一私の味方になってくれた人。唯一私のことを守ってくれた人。その人にコレトーはよく似ている。
ここに来て、初めてコレトーを見た時は驚いた。
でも、服装が違っていたし私のことを知らなかったから別人なのだとすぐに気付いた。
きっとここで死んだら次はなくて、今度こそ終わりなのだと思う。
だから私は、ここに来る前に私の最期の時まで側にいてくれたあの人の様にコレトーの側に最後までいたい。


2019/11/11
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -