丁度、日付が変わった瞬間だった。
高杉がそろそろ床につこうかと思っていた矢先、高杉が今現在形でいる部屋の襖がスパーン!と軽快な音を立てて勢い良く開いた。


「!?」


驚いて音のした襖へと視線を向けると、そこには攘夷戦争以来何の音沙汰もなかった名前の姿があった。攘夷戦争以来目にしていなくとも、変わらない彼女の姿にすぐに名前であると分かる。
この真夜中にいきなりの現れただけでも驚きなのだが、攘夷戦争以来何の音沙汰もなかったというのに何故このタイミングでいきなり高杉の部屋――いや、鬼兵隊の船の場所が分かりここまでやって来て現れたのか?高杉が名前にその疑問を問おうと口を開くより名前が声を発する方が先だった。


「高杉!久しぶりー!誕生日おめでとおおお!!」


大きい声でそう言いながら、名前は手にしていたクラッカーの紐を思いっきり引っ張った。
パァン!という乾いた音が鳴り響きクラッカーから紙テープが飛び出した。そして、名前は嬉しそうな笑みを浮かべる。


「よっしゃあああ!!私が一――」


おそらく一番と続くのだろう名前のそれを遮ったのは、再びスパーン!というつい先程聞いたばかりの音だった。しかし、音の出処は先程とは違う。部屋の入り口には名前が立っている。音の出処は、高杉の右側からだ。そこにあるのは、押入れだ。
勢い良く開かれたのは押入れの戸だ。そして、中から笑い声を上げながら現れたのはよく見知っている人物だった。


「ふはははは!残念だったな名前!一番ノリはこの俺だ!三日前からスタンバってました!」


桂だ。押入れから桂が現れた。
どうやら三日前から押入れの中に潜んでいたらしいが高杉は気が付かなかった。押入れを開けなかったわけではない。布団の出し入れはしている。その時に桂は押入れの天井部分の板をずらし、屋根裏にでも潜んでいたのだろうか?
桂の存在に気が付かなかったことにもだが、三日前からというその周到さとよく押入れに三日間もいれたものだと思うと高杉はひくり、と自身の顔が引き攣るのを感じた。


「ヅ、ヅラ!?三日前って…くっそやられた!」


高杉のそんな心境など知らず、名前は桂の姿を目にして膝からその場に崩れ落ちた。
三日前から桂がスタンバっていたことがショックらしい。三日前三日前…とぶつぶつ呟いている。


「……」


どこから突っ込んでいいものかと高杉が思っていると、今度はドカアアアン!という大きい音を衝撃が鳴り響いた。高杉の目の前を何かの破片が吹き飛んでいった。
何かの破片、は、正確には壁だったはずのモノだ。今の今までその壁があったはずの場所には、小型の一人乗り用の宇宙船が部屋に侵入する形で突き刺さっていた。
ひくり、再び高杉は自身の顔が引き攣るのを感じた。
その宇宙船の正体は予想するまでもないだろう。この現状から推理するまでもない。先に現れた名前と桂というメンツから答えは出ている。
しん、と妙な静寂が漂う部屋の中、宇宙船の扉が開いた。中から、予想通りの人物が笑いながら現れた。


「アッハッハッ!すまんのー高杉、つい手が滑ってしまっての…突っ込むつもりはなかったぜよ」
「……」
「あ、誕生日おめでとう」


取ってつけたように誕生日を祝われても嬉しくもなんともない。
誕生日だというのに、盛大に船を宇宙船で破壊された高杉には嫌がらせにしか思えない。
名前と桂はといえば、散らばった元壁だったモノを眺めながら二人でうんうん、と頷き合っていた。


「辰馬…相変わらずだよね」
「ああ、相変わらずだな」
「アッハッハ!悪気はなかったんじゃき…ごめん」


高杉にぺこりと頭を下げる辰馬。そして、すぐに名前と桂の元へ近寄るとすんなりとその会話に加わる。


「辰馬も来たし、残るは銀ちゃんだけか…ふふふ、決定だね」
「ああ、決定だな」
「そうじゃな、決定ぜよ」
「…おい、」


ここにきてやっと何かを言いかけた高杉だったが、タイミングが悪かった。高杉の「おい」に続く言葉は三人がペラペラと最近どうしただのあのお菓子が美味しいだの割りとどうでもいい、しかし、妙な盛り上がっている会話にかき消されてしまった。
それは昔から何一つ変わっていない。三人にとって会っていなかった時間など関係ないのだろう。


「でね、このクラッカーすごくない?なんと――」


クラッカーの紐を引っ張る名前。パンっと軽い音が響き中から鳩が飛び出した。


「鳩が出ます!」
「おお、何だそれは!?今時のクラッカーは鳩が出るのか!?」
「鳩だけじゃないぜよ」


今度は辰馬はポケットからクラッカーを取り出すと、すかさず紐を引っ張った。パンっと再び軽い音が響き今度は――


「フラミンゴも出るぜよ」
「!? フ、フラミンゴだと!?」
「あーっ、辰馬それフラミンゴシリーズでしょ!?めっさレアなやつだよねそれ!?いいなー、どこで買ったの!?」
「なあに、伊達に商売しとらんぜよ!」
「最近のクラッカーはフラミンゴも出るのか…知らなんだ…」
「フラミンゴだけじゃないぜよ。これは――」

「相変わらずギャーギャーギャーギャーうるせーな…おめーら」


辰馬の言葉を遮って、最後の一人銀時が現れた。


「銀ちゃん遅いよ!」
「遅刻だぞ銀時」
「アッハッハ、久しぶりじゃのー金時!」
「いや、おめーらが早すぎなんだよ。俺だってちゃんとピッタリに着くように家出たからね?」
「でも、遅刻じゃん。最後に来たのは紛れもない事実だよ。ということで、最後に来た人が奢るって決まりだったよね?」


ひくり、と銀時の顔が引き攣る。やっぱり来なければよかったかもしれないと後悔した。
来る途中に何度か引き返そうかと思わなかったといえば嘘になる。それでも、ここに来たのは名前がわざわざ万事屋まで来て頼みこんだからだ。


「え…いや、でもさ…」
「諦めろ銀時」


逃れようと何かを言おうとする銀時の肩に桂はポンっと手を置いた。


「よーし、じゃあ、銀ちゃんの奢りで高杉の誕生日パーティを開催したいと思います!」


わあっと盛り上がる桂と辰馬。財布を取り出し中身を確認している銀時。それを呆けた顔で眺めている高杉。


「それでは、移動しまーす!」
「移動って…お前今何時だと思ってんの?こんな時間に開いてる店なんてあんの?」
「ふふふふ、銀ちゃん…あるじゃない?二十四時間営業のファミレスが」
「え、ファミレス?高杉の誕生日パーティファミレスでいいの?」
「構わん。私が許す!」
「何でお前が許可してんの!?」
「さあ、行くぞ。既にファミレスには予約済みだ」
「手際いいなおい!?」
「ちなみに予約したんはわしぜよ」


会話をしながらがやがやと部屋から出て行く三人。
誕生日パーティの主役である高杉はといえば、未だにそれを呆けた顔で眺めていた。名前も三人の後に続こうとするが、高杉がついて来ていないことに気づく。
名前はこの部屋に突入した時から移動していない高杉の元へ近づくと、手を差し出す。


「ほら、何してんの?今日は高杉が主役だよ。行こ?」


差し出された名前の手に、高杉はゆっくりと手を重ねた。
高杉が手を重ねる瞬間、少しだけ口元に笑みが浮かべたような気がした。それは一瞬で微妙なもので、気のせいだったかもしれない。おそらく高杉をよく知っている人間でなければ気がつかないものだろう。けれど、名前はそれを見逃さなかった。
高杉と手を繋いだまま三人の後を追いかけながら、自然と名前の口元にも笑みが浮かんだ。


8月10日



2013 8 31
高杉誕生日おめでとうございました!
高杉誕生日の話なのに高杉おいしか喋ってなくてごめんなさい…。
あと、色々細かいところは突っ込まないでほしい。

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -