バタバタと船内に大きな足音が響く。
続いて、この船の船長を呼ぶ声が近付いてくる。
船長であるローがいる船室まで来ると派手な音を立てて勢いよくドアが開かれた。

「おいベポ、ドアは静かに開けろって言ってるだろ」

船室内で本を読んでいたローの視線が手元の本から部屋の入り口に立ち肩で息をしているベポへと向けられる。

「ご、ごめんキャプテン……それより名前が……」
「あいつがどうした?」
「酒場で他の海賊と喧嘩しちゃって……」
「またか……」

思いっきり呆れた様な溜息を一つ落とした。
名前というのは、この船のクルーの一人である。また、出かけた先で何かしらの騒ぎを起こすことに関しては天才的な才能を持っているのではないかとハートの海賊団全員から思われている。
今日も出かける前に、ローから絶対に騒ぎは起こすなと念を押されていたにも関わらず、また騒ぎを起こしてしまっているらしい。それが喧嘩とくれば、彼女を止められるのは船長であるローしかいない。

「仕方ねェな。ベポ案内しろ」

一言呟くとローは船室を後にした。



ベポに案内された酒場のドアをくぐると真っ先に目に入ってきたのは、屈強そうな男を片足で踏みつけている名前だった。
周囲には、彼女が踏みつけている男の仲間と思われる男達が転がっていた。言うまでもなく彼女の仕業だ。
ローから再び溜息が漏れる。おい、と声をかけると名前の視線が足元の男からローとベポに向けられた。
瞬間、ぱっと嬉しそうに笑みを浮かべて手を振ってくる。

「あっキャプテン!やっほー」
「やっほーじゃねェ。こりゃあどういうことだ?」
「だって、こいつがキャプテンの悪口言った」

言いながらぐりぐりと男を踏みつける足に更に力を込めた。男からは呻き声が上がる。

「うるさいなあー」

そんな理由でと思うかもしれないが、名前はそんな理由で今まで何回も騒ぎを起こしてきた。口よりも先に手か足が出る。
無視をすればいいだろうと何度もローに説教をされているが、その時だけ反省してあとはすっかり忘れてしまっているのだ。
三度目の溜息が出そうになったローだったが、それを飲み込み静かに彼女の名前を呼ぶ。

「名前」

ローの意図が通じたのか仕方ないという風に彼女は男から足を退けた。

「ホントはもっといたぶろうと思ったけど、これ以上やるとキャプテンに怒られるから勘弁してあげる。さっさとどっか行けよ」

名前は、べーっと舌を出してみせる。
解放された男は起き上がり息を整えると彼女を鋭く睨みつけた。

「このゴリラ女が……!」

それにいち早く反応したのは、意外なことに名前ではなくローである。

「おい、こいつのどこがゴリラ女だって?口には気をつけろ」

まずいという顔をした名前とベポが止めようとするよりも、ローが技を発動させるのが先だった。
瞬間、球体のサークルに酒場全体が包み込まれる。ここから誰も逃す気はないらしい。
いつも騒ぎを起こすのは決まって名前である。
しかし、その名前が何か言われた時や何かあった際に必ず彼女以上に怒るのは船長であるローだ。今回も例外ではない。
ベポはなんとかローを止めようとしているが、既にそんな気はなくなった名前は近くにあった椅子を引っ張ってくるとそれに腰かける。

「やっちゃえキャプテンー!」
「えっ!?名前もキャプテンのこと止めるの手伝ってよ!」
「やだ。ベポもこっち来て座りなよ」

名前は座っていた椅子の隣にもう一つ椅子を並べるとそこをぽんぽんと叩いて、そこにベポを座る様に促す。
完全に観戦する気でいる名前と止まりそうにないローを交互に見て、今日一番盛大な溜息をベポは漏らした。


2019/10/15
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