バレていた。
私が国際警察の一員だということがバレていた。
潜入捜査のために素性を隠し、普通の一般人を装ってターゲットに接触していたのに、そのターゲットには割と早い段階でバレていたらしい。

「普通の一般人にしては歩き方に音が無さすぎるな。あと、トレーナーでもないのにバトルに慣れ過ぎだ。ポケモンも相当大事に育ててある……と、他にも色々あるが、まあ、お前さん潜入捜査には向いてねぇよ」

ターゲットからの散々の言われようである。
しかも、気付いていて暫く黙って様子を見ていたと言うのだから悪趣味である。
身バレはしたが、幸いなことに私が何故ターゲットに接触したのか、その目的まではバレていない様だ。いや、もしかしたらまた気付いておきながら、黙っているという可能性もあるかもしれない。油断のならない相手である。
流石は、元国際警察の一員だった男というだけはある。
しかし、そんな男が何故ロケット団のボスとの関わりについて疑いがかけられているのだろうか。現役時代に情報を得るために何かよからぬ取引をしていた、とかだろうか?
真意は分からないが、私の任務はその尻尾を掴むことだ。残念ながら、今のところ全く尻尾を掴ませてはくれそうにはない。
それに、まさかこんなに早い段階で身バレをするとは予想していなかった。
ターゲットである男に言われたとおりに、潜入捜査に向いていないのかもしれないと少し凹みはしたが、私は元来凹み続けられる様な性格をしていない。正体がバレてしまった時には、流石に動揺してしまったが、逆に開き直ることにした。
バレてしまったのなら仕方がない。今更変えられない事実はどうしようもないのだから、正体を隠すのをやめた。
だから、堂々とターゲットの勤務している交番に入り浸ることにした。

「ということで、付き纏うことにしました!」
「ねえちゃん……ついにストーカーに目覚めたか?」
「違いますー。絶対に動かぬ証拠を掴んでやるって言ってんですよ」
「そういうところが向いてないって言ってんだがな……」
「はい?」
「まあ、あれだな。出来るもんなら、やってみな」

普段はやる気がなさそうにしているというのに、挑発的で意地悪そうな笑みを浮かべるターゲットのなんと愉しそうなことか。
今まで見てきた中で一番愉しそうな顔をしていた様に見えた。

**

交番に入り浸るようになってから暫く経った。
ボールに入りたがらない私のガーディはすっかりニャース達と仲良くなって一緒に遊んだり昼寝をしたりしている。そのせいか段々と言動がニャース寄りになってきた気がする。
ターゲットはといえば、やはり一向に尻尾を出す気配が全くない。パソコンの前の椅子に座り、パソコンを操作する素振りすら見せずにずっとけん玉をしている。
ここに入り浸るようになってから、毎日毎日けん玉をしている様に見えるのだが飽きないのだろうか。
私はというと、斜め向かい側のソファーに座って本を読んだりターゲットを観察したりガーディやニャース達と遊んだりして過ごしている。
こんなにまったりした任務でいいんだろうかと思わなくもないが、肝心のターゲットから目を離すわけにもいかないので仕方がない。

「クチナシさーん、暇なんですか?」
「いんや、忙しい」
「けん玉するのに?」
「まあな」

それを忙しいとは言わない。
けれど、いつからだろうかこうやってダラダラと過ごすこの時間が不思議と嫌ではなくなってきていた。
アローラの温暖な気候がそう感じさせるのか、いつの間にかすっかりと居心地がよくなってしまったこの場所のせいなのだろうか。

「クチナシさーん、早く尻尾出してくださいよー」

言いながら背の伸びをする。隣に座っていたニャースも私につられたのか伸びをした。
口では早く尻尾を出してと言うが、証拠を掴めない間はここにいられると思ってしまう。思ってしまう様になっている。
おそらくこの人は、私に尻尾を出す様な真似はしないだろうと思う。
だから、少なくとも、本部から監視は不要だと指示がくるまではここにいられるだろう。
そうなればいい。いっそのことずっと尻尾を出さないでほしい。私に証拠を掴ませてくれなければいい。
そうすれば、少しでも長くここに、このすっかり居心地がよくなってしまった交番にいられるのだから、なんて思っているとは絶対に言えない。
勿論、言うつもりもないのだが、もしかしたら私のこの考えも彼には既に見破られてしまっている可能性もある。
気になって、隣に座っているニャースと遊ぶふりをしながら彼に悟られない様に盗み見れば、やはりまだけん玉に夢中になっていた。


2019/06/10
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -