※938話扉絵ネタ


目を疑った。
ソファーに座っていた私は、何かの見間違いかと思い、目を擦ってから再び見てみたがどうやら見間違いではないらしい。それならば、これは夢かもしれないと思い、頬を抓ってみる。痛い。夢でもないらしい。これは現実で、今現在進行形で起こっていることに間違いがない。
高級ホテルのスイートルーム、広いべランダでビーチチェアを広げその上に横になっている男がいる。
彼の名前はサー・クロコダイル。彼の経歴等は省くが、見るからに太々しくて怖そうで悪人顔である。一目見て、優しそうとか人がよさそうとかはまず絶対に思わないだろう。
そんな彼が、小鳥達と戯れている。正確には、彼の砂で小鳥達が砂浴びをしているだ。ビーチチェアに横になっている彼の上で小鳥達が砂浴びをしている。それはもう、楽しそうに小鳥達が砂浴びをしている。
微笑ましい光景に見えるが、小鳥達が砂浴びをしているその砂は彼の能力の砂である。その気になれば、対象から水分を奪い干からびたミイラにしてしまうことも出来る。小鳥達が怖いもの知らずなのか、彼の能力にそんな使い道もあったのかは分からないが何にせよ目を疑うには十分すぎる光景だ。
そこへタイミングよくダズが買い物から帰って来た。静かにするように指で合図をし、カメラを買って来てほしいと要求する。何故?と最もな疑問を投げかけてくるダズに、いいから早くと強引にお願いをして再び買い物へと向かわせる。
私の急な強引なお願いにも関わらず、腑に落ちなさそうな表情をしながらもカメラを買いに行ってくれるダズは優しいと思う。

サー・クロコダイル、彼との付き合いは割と長い方だ。
勿論、アラバスタでの一件も知っているし、それに関わっていなかったといえば嘘になる。微力ながら関わっていた、が正しい。ひとまずその話はまた今度にするとして、その付き合いの長さでも現在進行形で繰り広げられている目の前の光景には驚いてしまう。
もしかして、彼は動物には意外と優しいのかもしれない。
思い返してみれば、彼はアラバスタでも水槽でバナナワニを飼っていた。彼が水槽を軽く叩いて合図をすると、餌の時間だとバナナワニが群がってくるのを何度か目にしたことがある。それが、餌の合図だとバナナワニに覚えさせるため躾をしたのだろう。
バナナワニだけではない、バロックワークスの社員には動物もいた。全てを知っているわけではないが、何種類かは見かけたことがある。
更に、驚くべきことといえば、一ヶ月くらい前に雨が降った日だ。雨を嫌う彼がびしょ濡れで帰って来たことがあった。
私は、その理由を知っていたけれど、わざと彼にどうしたの?と理由を聞けば傘をなくしたとそっけない回答が返ってきた。素直に捨てられていた子犬に傘を被せて来たとは言わないだろうとは予想していたが、少し不貞腐れた様な表情で答える彼には少し笑いそうになった。勿論、悟られない様に表情には出さなかった。
よく考えてみれば他にも色々思い当たる節がないわけではないが、以上のことから彼は動物が好きなのかもしれない。
彼の見た目からは想像もつかないし、動物が好きなのか?と聞いて素直に答える人ではないというのは知っている。
惚れた弱みというやつなのか、彼のそんなところも可愛いと思ってしまう。

バサバサと羽音がした。
彼が動いたため、砂浴びしていた小鳥達が一斉に飛び立っていったようだ。
あの貴重すぎる光景をカメラに収めたかったのだが、ダズは間に合わなかったか。非常に残念ではあるが、またの機会があるかもしれない。その時のためにダズが買ってきてくれるであろうカメラは大事に保管しておこうと思う。
室内に入ってきた彼は、ソファーに座っている私の隣へと座る。ソファーのスプリングが深く沈んだ。

「ねえ、クロコダイル」
「何だ」
「今度動物園に行こうか」
「行きてぇのか?」
「ええ、そうね、行きたいの」
「仕方ねぇな、連れてってやる」

側から見たら、素っ気ないのだと思う。しかし、私には仕方ないとは言いつつ、そう言った彼の顔が少しだけ嬉しそうに見えた。


2019/04/08

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