手を引かれるがままに路地裏に連れて行かれた彼女の背中に軽い衝撃が走った。目の前には彼女より背の高い男が一人。彼女は壁を背にされ完全に行き場を塞がれた。逃げ道はない。
何故このような状況になっているのかといえば、土御門が学校帰りにいつもつるんでいる二人組の上条当麻、青髪ピアスと歩いているとふいに掛けられた声。その正体が今、土御門に逃げ道を塞がれている彼女だった。
彼女は、キリスト清教必要悪の教会所属の魔術師であるが、土御門は彼女が学園都市に来るとは聞いていなかった。イギリスにいると思いこんでいた。
そのイギリスにいるはずの彼女が、下校時に突然目の前に現れにこやかに声をかけてきたのだ当然驚く。驚いたのは土御門だけはない、一緒にいた二人も突然の彼女の登場に「ブロンドのお姉さんと知り合いなんて聞いてへんで」と土御門に迫ってくる青髪ピアスと「おい土御門!何でこんなお姉さんと知り合いなんだよ!?」と騒ぎ立てる上条当麻がいた。この二人からしたら当然の反応である。そんな二人を完全に無視して、彼女の腕を掴み強引に引っ張るかたちでその場を離れて今に至る。


「お前…何をしに来た?」


彼女に探るような視線を向ける土御門だが、当の本人である彼女は全く動揺することなくにこやかな笑みを返してきた。


「ねえ、久しぶりの再会にこんな扱いって酷んじゃない?何しに来たとか用事がなければ会いに来ちゃダメなの?」
「俺はお前が日本に来るとは聞いていない。お前がわざわざここに来たんだ、何もないはずがないだろ」


土御門の返答に不満そうな表情をしてみせた彼女は、少し考える素振りを見せた後に口を開いた。


「ただの観光よ。ジャパニーズ観光」
「嘘をつくな」
「……やっぱり、分かった?」
「当たり前だ。そんな分かりやすい嘘に俺が騙されるとでも思っているのか?」
「うーん……」
「第一、お前がそんな理由で来るわけがないからな」
「そんなことないんだけどなあー……」


はあーっと溜息を漏らす彼女を相変わらず探るような視線を向けたままの土御門は同じ質問を繰り返す。


「で、改めて聞くが、何をしに来た?」
「うーん、強いて言うなら、敵情視察かな?いずれ起こるであろう戦争の」
「――っ!?」


驚いた表情をした土御門に彼女の口角が妖しく上がる。


「それが起きないように、土御門が色々していることも全部知ってる」
「……」
「知っていてわざと言ってるの」
「お前……!」
「でも、勘違いしないでほしい。私はあなたの味方だから、あなたのことを何があっても守るから。でなければ、私が魔術を覚えた意味がない」


ね?と小首を傾げながら口角を上げる彼女は妖艶さが増して見えた。そっと腕を伸ばし土御門の頬を撫でてくる彼女に軽く目眩を覚えた。
彼女には、昔土御門に助けてもらった過去がある。
土御門より年上である彼女は、昔イギリスのスラム街で殺されかけていた。どこにも属していない魔術師によって殺されかけていたのだ。何故そういう状況になったのかは分からない。彼女もよくは覚えていなかった。殺されかけていた、それだけがどうしようもない事実だった。
そこをたまたま通りかかった土御門が彼女を助けた。話を聞けば彼女は捨てられ家も身寄りもないという。そこからの話は簡単で、彼女は土御門が連れ帰るままにイギリス清教に引き取られた。魔術も何も知らなかった彼女はそれがきっかけでこの世界に足を踏み入れた。
必死で魔術を自分の物にしようと努力をする彼女に土御門も協力した。彼女に日本語を教えたのも土御門である。命の恩人である土御門に一番彼女が懐いたのは言うまでもない。


「私はね、あの時土御門に助けてもらったから、今度は私が土御門を助けたいの」


土御門の頬を撫でながら言う彼女から土御門は視線を逸らす。


「お前に助けてもらうことなんか何もないぜよ……」
「そう、でもね、何でもそうやって一人で背負い込まないでほしい」
「……」
「少しでも一緒に背負わせてほしい、少しは頼ってほしいな?あなたに比べたら私はまだまだだけれど、これでも昔よりは少しでも頼ってもらえるくらいには力をつけたつもりだよ?」


それは間違いなく彼女の本心なのだろう。彼女の真剣な表情から嘘を言っていないことは見て取れる。
しかし、そんな彼女に対して土御門は鼻で笑う。


「はっ、笑わせるな。ホントにお前はまだまだだ。お前に出来ることはなにもないにゃー」
「でも…!」
「帰れ」
「嫌だ!」


頑なに引こうとしない彼女を土御門はギロリと見下げる。


「そう一度言うぞ、帰れ」
「やだ……」
「お前に出来ることは何もない。分かったら帰れ」
「……」


土御門に圧倒された彼女は何も反論出来ない。ただその場で下を向いて項垂れることしか出来なかった。
悔しかった、今なら土御門の力になれると思いわざわざ日本までやって来たのに、土御門は何も出来ることはないから帰れと言う。
ただただ土御門の圧に押されるだけの彼女は、確かに土御門が言うとおりにまだまだ力不足なのだろう。
彼女を一人残して土御門はその場を後にする。一人残された彼女はさって行く土御門の後ろ姿に視線を移した。あの頃よりも頼もしくなっている背中に少しだけ寂しさを感じた。


2018/10/14
昔に途中まで書いていたもの。
どういうオチにしたかったのか覚えていない。

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