今、目の前で起きている出来事に目を疑った。何かの見間違いかと思い目を擦ってみたが、擦ってみたところで何も変わりはなかった。認めたくはなかったが、どうやらこれは見間違いではなく事実ということだ。
何を見たのかといえば、街中で攘夷戦争以来ぶりに高杉を見かけた。今この時まで何の交流もなかったわけだが、高杉がテロリストであり指名手配されていることは知っている。そんな人物が昼間から街中を歩いていることにも驚いたが、あろうことか高杉は前方から真選組が歩いて来るのを見かけると店に展示されているマネキンに紛れ込んだのだ。完全にマネキンのふりをしている。
それに気付かずにマネキンに扮している高杉の前を通り過ぎて行った真選組にも驚きだ。本当に気付いていないのだろうか?だとしたら、この国の警察は大丈夫なのだろうか?と頭を抱えてしまう。
高杉はといえば一連の行動が恥ずかしかったのだろうか俯いて固まっている。恥ずかしいと思うなら最初からやらなければいいだろう。攘夷戦争ぶりに見た高杉の行動に溜息が出ると共に彼の頭を心配してしまう。馬鹿になったのではないのだろうか?私の知っている高杉はこのような行動をする奴だったろうか?
少し考えてみた。そういえばする奴だったかもしれない。顔を合わせれば口喧嘩が絶えないくせに銀時と一緒に馬鹿なことばかりしていた様な気がする。過激派テロリストだと騒がれはいるが、何だ変わっていないじゃないか。高杉は高杉のままだということに少し安堵し、その場を去ろうとした。
去ろうとしたのだが、その瞬間に顔を上げた高杉とばっちりと目が合った。
まずい、と思い高杉に背を向け急ぎその場から離れようとしたが私の動きは遅かったらしい。瞬間移動でもして来たのか?移動速度早すぎでは?という疑問が頭に浮かぶ。私の肩はがっしりと高杉に掴まれていた。


「よォ、久しぶりだなァ?」
「……えーっと、どなたでしょうか?人違いでは?」


冷や汗がすごい。
高杉に関わるとおそらく、いや、絶対に面倒なことに巻き込まれる。
攘夷戦争後、紆余屈折を経てようやく情報屋として名をあげてきたというこのタイミングで面倒事に巻き込まれるのだけごめんだ。ここは何としても他人のふりを決め込みたい。


「……」
「あ、あのー……手を離してくれません?」


私の肩をがっつりと掴んだまま動かない高杉に、少し振り返りにっこり笑ってみるが全く肩を離してくれる気配がない。
それどころか手に少し力が入った。正直痛い。


「……手を離してくれません?」
「言い直さなくても聞こえてらァ」


すっと肩が軽くなった。
ようやく離してくれたのかとほっとしたが、私の肩から離れた高杉の手は今度は私の手首を掴んだ。そのまま私の手を引き寄せ、べろりと舐めてきた。訳が分からない。


「!?」
「やっぱ名前じゃねえか。お前の味だ」
「な、何を……高杉いいいいい!!」
「ほら見ろ、名乗った覚えのねぇ俺の名前をちゃんと知ってんじゃねえか」
「自分が指名手配されてること分かってます?有名人じゃないですか……」
「ヘェ、そりゃ知らなかったな。俺ァいつの間にかそんな有名人になっちまってたのか。幼馴染がそんな有名人になって、お前も大層鼻が高いんじゃねえか?」
「テロリストが幼馴染なんて嬉しくない!」
「幼馴染だと認めたな?」
「は……?あっ……!」
「さあて、他人のふりは終いにしようや。情報屋の名前ちゃん?」


バレていた。情報屋をしていることもバレていた。
高杉の様な過激派テロリストにも情報屋をしていることが知られているということは、私も情報屋としての顔が広まっていることで寧ろ喜ぶべきことではないのだろうか?もしかして、私も有名人?等、考えていると高杉に鼻で笑われた。


「一応言っておくが、今お前が思っていることはズレてんぞ」
「え?」
「別にお前は有名人でも何でもねぇよ。俺がずっと探していただけだ……」
「は……?」
「まさか情報屋なんざやっているとは驚いたがな。さて、真選組に見つかる前に行くぞ」


ぐいっと私の手を引き歩き出す高杉につられて私もそのまま歩き出す。
聞き間違いでなければずっと探していたと言った。私は高杉に探されるようなことをした覚えはないはずだが。


「あのさ、一応聞くけど、何でずっと私のこと探してたの?」
「そりゃあ、あの時貸した300円きっちり返してもらうために決まってんだろ」


何を言っているんだ?お前は、という表情を向けてくる高杉に私のツッコミが辺りに響き渡ったのは言うまでもない。


2018/8/26
本誌であの話を読んだ後に勢いで書いたもの。
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