*08


土方は、近藤の部屋の前に立ち尽くしていた。
凛と話していたはずの近藤が顔を腫らし、笑顔で出迎えたからである。

「その顔誰にやられたんだ、近藤さん。」

いつもなら志村姉だろうが、もし凛だった場合はあいつと万事屋を斬る口実ができる。
不謹慎かとも思いながら、少しだけ期待してしまう自分がいた。

「トシ、これはお妙さんの照れ隠しだ!」

そう言ってガハハと笑う近藤さんに、ため息をついた。
結局志村姉か、そもそもいつストーカーしに行く暇があったんだ。
そんな土方の考えを見抜いたかのように、近藤が続けた。

「凛ちゃんと万事屋を門まで送って戻ろうとしたらな、近くでお妙さんの声が聞こえた気がしてそっちの方に行ったら、本当にお妙さんがいてなァ!すごくない?ねえトシすごくない?愛の力じゃない?」

愛の力だったとしたらそんな顔になって帰ってくることはねェだろうよ、と思った土方だが、口には出さなかった。
代わりに凛と何を話したのか、と質問する。
すると、近藤の緩んでいた顔が途端に引き締まり、先ほど凛から聞いた話を土方に伝えた。

「どういうことだ…?」

「俺にもわからんのだが…、万事屋はある程度知っているようだったし、疑っている様子でもなかったんだよなァ。」

土方は、近藤から凛についての話を聞き、信じられないというより、この人はそれを信じたのか、と頭を抱えたくなった。

「何かその話を信じるに足る証拠とかはあったのか?」

「そういうものはなかったが…。」

しかし瞳を見ればすぐにわかった、と近藤は続けた。
だが真選組を守る立場である以上、そんな曖昧なことを言われても困る、と土方が言い返す。

「まァトシ!あんな女の子一人で潰れるような組織じゃあ、この先もどうせやっていけないだろう?それともあの子にやられるとでも思ってるのか?トシ。」

「そういうわけじゃねェけどよ…。」

ただ警戒するに超したことはないと思うが、それは自分の役目だと土方は自身に言い聞かせ、今後も凛を見張ることを心に決めた。

「で、あいつはいつから働くんだ?」

「凛ちゃんは明後日からだな!明日は万事屋で過ごすそうだ。とりあえず明後日からってことだけ覚えておいてくれ!」

そう言うと近藤は自らの部屋へと帰っていった。
土方も自室へ戻ろうとすると、背後から呼び止められた。

「何だか面白そうな話してやしたねィ。」

「総悟!全部聞いてたのか。」

沖田はその質問には答えずに続けた。

「俺ァ凛さんが悪い奴には思えねェんです。たしかに初めは旦那と一緒にいたのを見かけて、興味を持って話しかけただけだったんですけどねィ、あいつ屯所まで歩いてくる間ずっとキョロキョロしてるんでさァ。何でも不思議そうに見たり、たまに近くを通った天人に驚いたりして。その様子を見てたんで、さっきの話も少しは納得しまさァ。」

土方は、普段は警戒心の強い沖田がここまで言うのも珍しいと思ったが、見極めるのにまだ時間が足りないと感じた。

「まァ働いてるのを見て判断しても遅くねェだろうよ。あんまり近づくんじゃねーぞ。」

そう言うと土方も近藤同様に自室へ戻っていった。




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