*06


そういえば沖田さんには自己紹介してもらったのはいいものの、私がするのを忘れていたので、屯所に行きがてら自己紹介をする。
沖田さんは隊長だと言ってたし、幼く見えるけど年上なのかもしれないと思っていたが、そんなことはなかった。まだ未成年らしい、それで隊長だなんて、きっと実力がすごいんだと思う。
沖田さんはというと、私が年上と知って、まァそんな感じしまさァ、年上なんだし総悟でいいですぜィ、と言ってまたすぐ前を向いてしまった。

「あ、わかりました。総悟、くん。」

「敬語もいいでさァ、俺が警察だからって堅くなんねーでくだせェよ。」

「…ふーーん、総一郎くん、気ィ遣ってあげて珍しく優しいじゃん。」

銀さんはつまらなそうに、けどどこかおちょくるように総悟くんに突っかかる。
すると総悟くんは、にやりと笑って、旦那、総悟でさァとだけ言った。
銀さんはそれに青筋を浮かべて、すごい顔をしていたので、まあまあ、と宥めておいた。

「ここでさァ、真選組屯所。対テロ用つっても見た目は普通でしょう?」

「あ、そうですね。言われてみればたしかに。…ん?真、選組…?」

どうかしやしたかィ?そんな総悟くんの声は右から左へ抜けていく。漢字が違う?看板で間違えるわけないよね?
そう、屯所の看板が新選組ではなくて、真選組なのだ。どういうことだろう。
そんな私の様子を、総悟くんはじっと見てから、何もなかったかのように、中に入るよう促した。

「どーぞ、この部屋で一旦待っててくだせェ。近藤さんと土方コノヤローには電話しておいたんで、すぐこっちに連れて来られると思いまさァ。今着いたって報告してきやす。」

そう言って総悟くんは部屋から出て行った。銀さんと並んで、座って待つ。
私は、さっきのことが頭から離れず、そのことばかり考えてしまう。

「銀さん、あの、真選組って、漢字…。」

「あ?かんじ?あー、チンピラ警察ね。感じわりーよな、わかるわかる。銀さんこいつらのこと大っ嫌いだもん。」

あ、だめだ、通じない。一人でうんうん頷いている銀さん。そんなことは一言も言っていないのにすごく同意されている。完全に一人の世界に入っちゃった。
すると、廊下を歩く足音が聞こえる。総悟くん、戻ってきたのかな。

「失礼しやす。旦那、凛さん、連れてきましたぜィ。」

襖の方へ顔を上げると、総悟くんと、体格の良い人、キリッとした所謂イケメンな人が立っていた。

「いやあ待たせてしまって申し訳ない!君が凛ちゃんかな?俺は真選組局長の近藤勲だ!それで、うちで働いてくれるんだって?」

「あ、凛です。よろしくお願いします。あっあの、はい、もしよければ働かせていただきたいな、と。」

銀さんはその言葉を聞いて、あれ?さっき感じ悪いって言ってなかったっけ凛ちゃん!?と勝手に焦っているが、私は断じてそんなことは言っていない。
すると、黒髪で、キリッとした人の方が話し始めた。

「ちょっと待て近藤さん!もしこいつが間者だったらどうすんだよ、女だからって油断はできねェぞ。」

そう言って、近藤さんに考え直すよう迫っている。そうだよね、もし私が間者として真選組に入ってしまったら大変だし、警戒するのが当たり前だ。
かといって、私も折角のこの機会を逃したくはない。少し様子を見て、言わなきゃいけないことはちゃんと言おう。

「でもトシィ…、こんな良い子そうだし…、万事屋の知り合いっぽいしィ…。」

「はあ?尚更信用ならねーだろ!」

「ちょっとそれどういうことですかァ?聞き捨てならないんですけどォ!」

「あ?ンだとやんのかコラ。」

なぜか銀さんと黒髪の人が喧嘩しているのだが、総悟くんは我関せず、近藤さんはでもォ、トシの言うこともわかるけどでもォと一人で人差し指を突き合わせながらずっと考えてくれている…?みたいだ。
なんだか真選組に入るのが不安になってきた。もし入れることになったとして、大丈夫だろうかここに入って。
だめだ、この状況はどうしようもない気がしてきた。総悟くんにどうにかしてほしい、と視線で訴える。
総悟くんは、にや、と笑ってそっぽを向いてしまった。しかも口笛を吹きながら。自分でどうにかしろってことか。

「あの!ここで働かせてください!女中さんの仕事なんてやったことないんですけど、精一杯やるので、お願いします…!」

そう言って頭を下げる私に、近藤さんと総悟くんをはじめ、喧嘩してた銀さん、黒髪の人も呆気にとられてこちらをぽかん、と見ている。
誰も何も言わないので、だんだんいたたまれなくなってきて、そっと顔を上げると、近藤さんが目に涙を溜めてこちらを見ているのがわかった。

「えっ!あ、あの、ごめんなさい!そんな困らせるつもりはなくて…!」

先ほどからずっと悩んでくれている様子だった近藤さんを、私の発言により、ついに泣かせてしまうとは。やってしまった。これはさすがに雇ってもらえない。
大の大人を泣かせてしまうなんて、申し訳なさ過ぎて、上げた顔をまた畳に擦りつけるくらい下げた。

「あの、ごめんなさい、ほんとにご迷惑をおかけしてしまって…、まさか泣かせてしまうだなんて、けどそこまで悩んで頂けて、嬉しいです。ありがとうござ…え?」

急にぎゅっと抱きしめられる感覚のあと、耳元でとてつもない大声がした。
銀さんは馬鹿野郎!離しやがれゴリラ!!と叫びながら、何かを私から引きはがそうとしている。

「凛ちゃん!!俺ァ、俺ァ嬉しい…!女中が足りなくて募集をかければ、皆トシと総悟目当てで仕事なんざ二の次なのに、こんな真剣に仕事がしたいっていう子久しぶりでよォ!」

近藤さんは号泣しながら、ねェトシ!いいよね!?凛ちゃん採用だよね!?と何度も確認している。
そんな近藤さんに折れたらしいトシ…?さんは、私を見て、一言言った。

「オイ、もしテメーが攘夷派の間者だったらこの銀髪もろともただじゃおかねェからな。」

それだけ言うと、書類残ってるから後は任せた、と言って部屋から出て行った。
目が、本気だった。いや、ふざける場面ではないけれども。蛇に睨まれた蛙とはこのことか、と実感した。

「あーあ、凛さんがびびっちまったじゃねーですかィ。ったく土方コノヤローは相変わらず使えねーなァ。」

ま、これからよろしくな、と言って私の頭を一撫でし、総悟くんも部屋から出て行った。さっき助けてって合図したとき助けてくれなかったくせに、とちょっと毒づきながらも、ここに連れてきてくれた総悟くんにお礼を言う。
総悟くんは片手を上げて、返事をした。

「さ、凛ちゃん!早速だが、働く条件を決めたいんだが、何か希望はあるかな?例えば週何日がいい〜とか!」

先ほどまで子どものように泣いていた近藤さんは、すっかり局長の顔に戻っていた。
銀さんは、あれ、さっきまで俺らのこと疑ってたくせに局長だけ置いてくってアイツら馬鹿じゃね?ね、凛、馬鹿じゃね?と言っている。たしかに一理ある。
近藤さんも聞こえたのか、涙目だ。これ以上この話題は良くない、私は銀さんの言葉を聞こえていない振りをして、近藤さんとの話し合いを進めた。


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