*03


昨日は遅かったこともあり、詳しいことはまた明日話そう、ということで寝ることになった。
ソファを借りようとしたら、歩き回って疲れてんだろ、と気遣ってもらい、お言葉に甘えて布団を借りて更にはパジャマも借りて寝させてもらった。
そして、坂田さんには堅苦しいのが嫌だから、と言われ銀さんと呼ばせてもらうことになった。
何だか昨日は怒濤の一日だったな、と思う。
人の布団で寝られるか不安だったが、疲れが上回っていたらしく、かなり熟睡してしまったようだ。
今日は、万事屋として出勤一日目だから、気を引き締めていきたいと思う。

そう、思っていたところに問題が一つ。着物が一人で着られないのだ。
銀さんに着させてもらうわけにもいかないしな…、と困り果てていると、おそらく玄関の方から声が聞こえてきた。

「おはようございまーす。」

誰だろう、ここで働いている人だろうか。寝るために借りていた和室の襖を開け、顔を出す。
すると、ばっちり目が合ってしまった。

「あっ、あの!今日からここで働かせていただきます、凛と申します。こんな格好ですみません、これからよろしくお願いします。」

「えっ!ああ、そうなんですね、銀さんが何かやらかしたかと思いました。僕はここの従業員の、志村新八です。よろしくお願いしますね、凛さん。」

眼鏡をかけた好青年だ。礼儀正しいし、真面目そうな子だな、という印象を受けた。ここで働くことになった経緯を話さなければいけないな、と思い口を開こうとした。

「おい、新八ィ。いちご牛乳。」

その声に後ろを振り返ると、眠そうな顔をした銀さんが立っていた。新八くんは、銀さんが起きたことに驚いたような様子ながらも、僕朝ご飯の支度しちゃいますね、と言って台所へ向かった。銀さんのいちご牛乳に関しては無視なのだろうか。
おはようございます、銀さん、と言えば、銀さんは、昨日のことを思い出すような素振りをしながら、おー、紹介しなくちゃなんねーな、と言い、押し入れに向かった。
何をするんだろう、と思って見ていると、押し入れの中には、オレンジ色の髪をした小さな子が寝ていた。
昨日は誰もいないと思ったが、押し入れに寝ていたのか。

「おい神楽、起きろ。朝飯だ。」

朝飯、という言葉に反応したのか、その子は素早く起き上がって銀さんを押しのけて押し入れから出てきた。
くりくりした目に、色白の肌がきれいな、かわいらしい女の子だった。その子は、こいつ誰アルカ?と言って私を指さしながら、銀さんの方を見た。

「いてて…、おい神楽、おめーは力の加減を考えろ。そいつのことは朝飯食いながら紹介する。」

銀さんはそう言って、とりあえず座れ、と私、新八くん、そして神楽ちゃんという女の子にソファに座るよう促した。
そして、銀さんが昨日の出来事を説明しつつ、一通り私のことを紹介すると、神楽ちゃんが話し始めた。

「それじゃあ凛は、これからここに住むアルカ?」

「うん、そう。これからよろしくね、神楽ちゃん。」

「キャッホウ!嬉しいアル!私凛のことたくさん知りたいアル、銀ちゃん、今日凛と出かけてきていいアルカ?」

私は、仕事があるのでは、と思い銀さんをちらっと見ると、あ−、いい、どーせ仕事なんてねーよ、と言って午後からならいいぜ、と神楽ちゃんに伝えた。

「なんでヨ!一日中遊びたいアル!」

神楽ちゃんが銀さんにそう伝えると、凛と話さなくちゃいけねーこととか色々あるの、と宥めていた。
神楽ちゃんは不満げにしながらも、納得したようで、なら午後は絶対アルヨ、と言って私に笑いかけてくれた。

「あ、お登勢さんのところにも行った方がいいんじゃないですか?」

新八くんがそう言い、銀さんもそうだな、と同意していた。
お登勢さん、という人が誰なんだろうか、と考えていると、銀さんがここの大家だと教えてくれた。

「昨日着てた着物もって、ババァんとこ行ってこい。」

銀さんは、私が着物を着られなかったことをお見通しなんだろうか。
びっくりして銀さんを見ていると、ごっそさん、と言って食器を片付けに行ってしまった。

「凛ー、ババァんとこ行ったら一旦こっち戻ってこいよ。」

そう言われて、はいっ!と返事をして、神楽ちゃんと銀さんと私が話している間、ご飯をつくってくれていた新八くんにごちそうさまでした、と言って私も食器を片付けに台所へ向かった。
新八くんの作ったご飯は、白ご飯にお味噌汁、卵焼き、と質素ながらも、おいしいものだった。

私は、お登勢さんに挨拶に行ってきます、と伝えて昨日銀さんについて上がった階段を下った。
昨日見た景色が別の様に思える。心に余裕が出来たからだろうか。それとも初対面の私に、物怖じせず関わってくれる万事屋のみんなのおかげだろうか、それとも両方だろうか。
何にしても、昨日銀さんに出会えて良かったと思った。
そして、万事屋の下、一階の扉をノックして開ける。

「おはようございます…。」

「なんだい、こんな朝っぱらから。…おや、見慣れない顔だね。」

声の聞こえた方を見ると、怖そうなおばさん?おばあさん?化粧でよくわからないけど、そんな感じの人が立っていた。
とにかく挨拶しないと、と思い、その人から感じる威圧感に負けず、口を開く。

「初めまして、朝からすみません。昨日、銀さんに助けていただいて、しばらくお世話になることになりました。凛と申します。ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、これからよろしくお願いします。」

そう挨拶すると、その人も、自己紹介してくれた。皆が言っていたお登勢さんとは、この人のことらしい。
たまさん、キャサリンさんにも挨拶をした。たまさんは、すごくかわいらしい人だと思っていたら、からくりらしい。私のところでいうロボットだ。動きはほぼ人間だし、とても良くできたものだと思った。
キャサリンさんは、何と猫の耳が生えていた。びっくりして見てしまうと、お登勢さんが、そいつァ天人だよ、と教えてくれた。
初めて天人と言葉を話した…、と感動していると、キャサリンさんは、アホノ坂田ト住ンデルチャイナモ天人ダヨ、知ラナカッタノカ、と教えてくれた。
天人は動物らしい何か、耳とか、顔全体とか、何かしらそういった特徴があると思っていたから、神楽ちゃんも天人だなんて驚いた。

「まァ、困ったことがあったら何でも言いな。助けてやれることだったら助けてやるからね。」

そう言われて、着物のことを思い出した。
そうだ、着られなかったんだったと思い、お登勢さんにその旨を伝えると、少し驚いた様子ながらも、快く引き受けてくれた。
そして、店ではなく、一室に通されると、手取り足取り丁寧に教えてくれた。

「一度で覚えるのも難しいだろうからね、わからなくなったらまたおいで。」

そう言って、大変だろうけど頑張りな、と言葉をかけてくれたお登勢さんにお礼を言い、万事屋へ戻った。


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