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「…い!…おい!あんた、こんな所で寝てもらっちゃ困るよ!」

「…ん…?」

騒がしい声によって目覚めた私は、なぜか道端で寝ていたらしい。
昨日は、お酒も飲まず、きちんと自宅のベッドで寝た、はず。
夢遊病にでもなったか、と思考を巡らせながら、とりあえず目の前で騒いでいる人に謝る。

「すみません、家で寝たつもりだったんですけど…、」

そう言って謝ると、私を起こしたおじさんは、何言ってるんだ、とにかくここにいられても困るから、と言って私にその場から移動するよう促した。
言われるがまま、とにかく動こうとすると、なぜか足が動かしづらいことに気がついた。

「あれ…、着物…?」

なぜか私は、いつも寝るときに着ているはずのスウェットではなく、着物を身につけていたのだ。
まったく状況が理解できないが、おじさんに急かされたので、とにかく立ち上がった。

「すみません、以後気をつけます。」

おじさんは店の開店準備をしているところだったらしく、店の暖簾を手にしていた。
怒っている相手に対し、これ以上時間を取らせるのも気が引けたので、とりあえず謝り、どこか落ち着ける場所に行こう、と思い、辺りを見回してみる。

「えっと…?」

そこには、伝統的な日本家屋が建ち並び、行き交う人々もまた着物だった。
タイムスリップなんて言葉が頭をよぎるが、そんな現実的でない発想はすぐに振り払い、とにかくこの周辺を探ってみよう、と思い、少し歩くことにした。

歩いているうちにわかったことは、二つ。
この土地の人々は、人ではないだろう何かと共存していることと、おそらく私の住んでいたところより科学が発展しているだろうこと。
また、そこらを何食わぬ顔で歩いている、動物の顔をした二足歩行の生物に対し、周囲の人間が驚きもせず平然としていることから、彼等は特に害はなさそうだ、と判断する。

そして、日本家屋にそぐわないものがいくつか。少し離れた所に見える大きな塔のようなもの、いくつも浮かんでいる船だ。
塔に関してはまだしも、船が浮かんでいるのは見たことがない。

わかったことが二つ、といったのは良いものの、進展はない。
とにかく、なぜか自分が着物を着ているため、周囲から浮かずに済んだことだけは良かった、と思う。

本当にどうしたものか、と考えながら、歩き続けると、お団子屋さんに通りかかった。
店から漂うあんこの香りに、つい立ち止まりかけたが、我に返る。
お金がないのだ。
重要なことに気づいた。店や商売があるということは、金銭もしくはそれに代わる何かがあるということである。
自分の服装が着物に変わってしまっているため、財布なども持ち合わせていない。
そもそも寝ていたはずなのだから、持っているわけがない。

いよいよ困ったことになった。
働くにしても身分は証明できないし、住所の証明もできない。
それにここがどこなのかわからないし、頼れる人もいない。
ああもう、どうしようもないな、とどこか他人事のように思った。


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