「ただいま戻りました。」

そう言うと、おー、と気の抜けた返事が聞こえた。
客間へ戻ると、そこには銀さんだけがいて、新八くんと神楽ちゃんはどこに行ったのだろうか、と気になったので、銀さんに聞いてみた。

「あー、昨日よ、ちゃんとした話は明日するっつったろ?あいつらいたら話しづれーこともあるかもしれねェと思ってよ。特に問題ないんだったら後から話せばいいしな。」

そう言われて、何だか銀さんには気を遣ってもらってばっかりだな、と思った。
そして、そうやって優しくしてもらう度、本当のことを話さなければいけない、とも思ってしまった。

「あの、これから話すことは、信じてもらえるかわかりませんが、今私に起きていることなんです。」

そう言って、自分の部屋で寝たはずなのに、起きたら何故か見知らぬ街の店の前に寝ていたこと、天人という種族を初めて知ったこと、見たことのない大きな塔や、技術があること、そして少しでもこの土地のことを知ろうと思って、本屋で立ち読みしている時に、銀時と出会ったことを、順を追って説明した。
銀時は、なかば信じられない、といったような表情で、黙り込んでしまった。

「あの…、突然こんな話をしてしまってすみません。信じられないのが普通だと思います、私だってまだ夢なんじゃないかって疑っているくらいなので…。でも、夢にしては長すぎるし、痛みだって感じるし、これが現実だって思わざるをえないんです。」

「あァ、信じがてェ話ではあるが…、そういや昨日言ってた確証を得られないことって何だ?」

「それは…、私が未来から来たのではないか、という仮説です。ここは、私の住んでいたところの過去に良く似ています。建物だとか、人々の格好だとか。けど、天人なんて聞いたことはないし、その時代は、こんなに技術は発展していないはずなんです。」

こいつァまた妙な話になってきたな、と言って銀さんはいちご牛乳をつぎ足しに冷蔵庫へと向かった。
たしかに、こんな話誰が信じてくれるだろうか。銀さんが少し優しくしてくれたからって甘えすぎたのかもしれない。きっと彼だって面倒なことに巻き込まれた、と思っているだろう。
いちご牛乳をコップについで、満足そうに戻ってきた銀さんは、先ほどのように、銀さんの特等席らしき社長椅子のようなものに座る。

「それで?タイムスリップっつー仮説は消えてどーなったわけ?」

「…わかりません。パラレルワールドなんてことも考えましたが、タイムスリップもパラレルワールドも、そんな非現実的なことを私自身が信じられなくて。認めたくないだけかもしれませんが、確証がないということは、そういう非現実的なことが起きたのかとか、ここがどこなのかとか、そういったことなんです。」

「ここがどこなのか、っつー質問には答えられるな。ここは江戸のかぶき町だ。知ってるか?」

江戸、やはりここは江戸時代なのだろうか。しかし江戸にかぶき町なんて町があったかどうかなんて、そんなことは知らないので、正直にそう答えた。
でも、科学的な面だけでなく、タイムスリップとか、横文字の言葉が通じる時点で、おそらく私の知る江戸とは違うのだろう。
この話し合いに結論をつけることは難しいと判断したのか、銀さんはまァゆっくり調べていけばいいんじゃねーの?神楽が待ってるから行ってやれと言って、ジャンプと書かれた雑誌を読み始めた。
何だか似たものもあるんだなあ、と思いながらも、突っ込むことはせず、階段下で待っているらしい神楽ちゃんのもとへと向かおうとすると、銀さんに呼び止められた。
そして、パチンコで当てて換金したというお金を渡され、必要なもん買ってこい、と言われた。

「えっ、そんな、申し訳ないですよ。」

そう伝えると、だからこれから万事屋として働いてくれんだろ?と言って取りあってもらえなかった。
諦めてありがとう、と伝えると、満足げに笑っておう、と言ってくれた。


万事屋から出て、階段を下りていくと、神楽ちゃんの姿が見えた。
神楽ちゃんは、私の姿を見つけると、凛!と言って、走り寄って来てくれた。

「どこに行くアルカ?凛はどっか行きたいところあるアルカ?」

そう尋ねられたので銀さんに言われた通り、日用品を買いに行きたい、と言うと神楽ちゃんは快諾してくれ、案内してくれることとなった。
神楽ちゃんは道中、銀さんと私が何を話していたか気にしているようだったので、夜ご飯のときに新八くんにも話すから、その時まで待っててね、と伝えた。


ある程度日用品を買い終わり、夜ご飯の材料を買おう、とスーパーへ向かっている時だった。

「姉御ォ!」

神楽ちゃんはそう言って、ピンク色の着物を着た、綺麗な女の人へ走り寄っていった。
姉御なんて、すごい呼び方するなあ、と思いながら、その人と神楽ちゃんのもとへ追いつくと、神楽ちゃんが紹介してくれた。

「姉御、こいつ凛っていって、万事屋に住むことになったアル。」

「まあそうなの?志村妙です。よろしくお願いします。」

志村…、聞いたことあるな、と考えを巡らせていると、神楽ちゃんが新八のねーちゃんアルヨ、と教えてくれた。
なるほど、たしかに目元とかが似ているかもしれない。美人さんだ、と思った。
神楽ちゃんはお妙ちゃんのことをかなり慕っているようで、とても嬉しそうに話している。

「姉御、今日は夜ご飯一緒にどうアルカ?凛が作ってくれるアル、私たちも初めて凛の手料理食べるアルヨ、姉御もおいでヨ!」

「あら…、ごめんなさい。行きたいのはやまやまなんだけど、仕事が入ってしまって…。またの機会にお邪魔するわね、凛さん、ぜひうちにもいらしてくださいな。たくさんお話しましょう?」

そう言って笑いかけてくれたお妙ちゃんに、是非行かせてほしい、と答えて、女の子でお泊まり会をしよう、という話になった。
そうして、仕事にいくお妙ちゃんと別れて、私と神楽ちゃんも万事屋への道を歩く。

「神楽ちゃん、今日はありがとう。また今度、色んなところに連れて行ってくれる?」

そう言うと、神楽ちゃんは目を輝かせて、もちろんアル!かぶき町の女王に任せるヨロシ!と言って、ニコッと笑ってくれた。

今日の夕食は、神楽ちゃんがたくさん食べられるように、カレーにした。朝ご飯の際に、神楽ちゃんの大食いを知って、びっくりした。あんなに細い体のどこに入ってるんだろう。
そして、新八くんと神楽ちゃんに、私自身の話をした。初めは何と声をかければいいのか戸惑っていたようだったが、私があまり落ち込んでいない様子を見て、気にしないでいてくれた。
銀さんはそれを静かに見守っていた。
万事屋は、温かい場所なんだな、とそんな銀さんを見ながら思った。


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