日は正午を超えていないらしい。
先ほどの店のおじさんも、これから店を開こうとしていたようだし、おそらくまだ夜までは時間があるようだ。
まだ助かった、と思った。何もわからない土地で夜を迎えるのは怖い。

とにかく、この土地のことを知らなければいけない、と思い、ふらふらと歩いて見つけた本屋に入る。
そこには、私の知っている本屋とほぼ変わらない光景が広がっていた。
歴史のコーナーに進み、適当な本を手に取る。

「攘夷…、天人…?」

攘夷は何となく想像がつくが、天人とは何だろうか。
挿絵を見ると、先ほど街中で見かけた動物の顔をした二足歩行の生物に近いものが載っている。あれは天人というのか。
約二十年前に天人の要求によりほぼ強制的に開国させられた、という記述で、江戸時代の日本を思い出す。
たしかに、それらしい建物も多いし、着物だってみんな着ている。
しかし、私の知っている江戸時代はこんなに科学は発展していないし、天人もいない。
一体何がどうなっているのか、本を読みながら考え込んでいると、後ろから本を取り上げられた。

「は〜いお姉さん、立ち読みしてもらっちゃ困るんだよねェ〜、しかもこんな真面目そうな本!ジャンプならまだわかるけどさァ。」

驚いて後ろを振り向くと、白髪のお兄さんが面倒そうに立っていた。
白髪に、それに赤い目なんて珍しい人もいるものだと思い、じっと見ていると、お兄さんは一人で勝手に話し出した。

「えっ、ちょっ何?俺何か悪いこと言った?そんなに見られると銀さん照れちゃうんですけど!」

「あっすみません、そんなつもりはなくて。ただ、その本が気になっただけなんです。」

不躾にじっと見てしまったことを謝り、そう言うと、なら買えばいーじゃん、とこれまた面倒そうに返される。
ああ、なんて言おう、お金まったく無いんですなんて恥ずかしくて言えない、けどそうですねって言っても買う流れになってしまう気がする。
お兄さんは本屋の店員らしく落ち着いた色のエプロンをしており、そういった流れになってもおかしくないだろう。

「えーっと…、立ち読みしてたのはすみません。でも今、持ち合わせがなくて…。」

「あーそういう感じね、まあこういう本ってちょっと高いしねェ。まあ気ィつけな。」

お兄さんはそれだけ言うと欠伸をしながら歩いて行ってしまった。
何かわかりそうだったのに、居づらくなってしまい結局その本屋を出ることにして、また少し歩こう、と考えた。


そうこうしている内に、日は沈んでしまい、辺りはすっかり暗くなってしまった。
違う本屋も探そうとしたのだが、何分お腹もすいて、足も疲れて動けなかったのである。
今は何時なのだろうか、人通りはあまり多くなく、いてもふらついた酔っ払いなので遅い時間なのだと考える。
野犬や怖い人が出たらどうしよう、と不安に思いながらも、とにかく休める場所を探す。
歩き回っているときに公園を見かけたので、そこに戻ろう、と思い振り返った。

すると、少し先に、見覚えのある白髪が揺れた。
夜ということもあり、心細くなっていた私は、顔見知り、というほどでもないが話したことのある人を見つけ、少し安心する。
お互い段々距離が縮まり、顔も判断できるほどになると、向こうも私に気がついたようで、驚いて立ち止まった。

「あ、立ち読みしてたねーちゃん。」

失礼な、と思いながらも確かにそれ以外の名前は思いつかないか、と思った。

「こんな時間に女一人で出歩いてちゃ危ねーよ?」

そう言って暗に何してるんだ、と問いかける彼は、悪い人に思えなかった。
しかし、彼の問いに答えようもなく、いやあ…、と言葉を濁しながら苦笑いを浮かべると、何か察したようだった。

「まァ、何か事情があるみてェだし、このままほっといて何かあっても後味悪いし、とりあえず来いよ。」

俺ァ坂田銀時だ、そういって渡された名刺には万事屋 坂田銀時と記されていた。

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