あなたが王様というならば、
「…持田さん、持田さん。…寝ちゃいましたか?」
広いベッドに仰向けになっている俺の体には、黒いパーカーを着たままの持田さんが覆いかぶさるように抱きついている。
俺からは持田さんの顔が見えない。
「起きてるよ。」
一言、俺の耳が捕らえた低音ボイス。
小さい声で、なんだかいつもより覇気がない持田さんはギュウウ、と痛くない程度の力で抱きしめ続ける。
「…なんか、あったんですか?」
まるで子供みたいな、普段なら滅多にない甘え方をする持田に優しく問いかける。
「…別に。なんでもないよ。」
ヴィクトリーの王様ともあろう持田の口からは弱気や愚痴などは出てこない。
ただゆっくりと背中を撫でてやることしか出来ない椿は、静かに苦笑を浮かべる。
互いの体温を感じながら目を閉じれば、規則正しい時計の音が耳に入ってくる。
チ、チ、チ、チ…今は何時だろうか。
電気をつけていない部屋は暗闇と化している。
その中で黒いパーカーを着ている持田はまるで、闇に紛れてしまいたいかのように見えた。
「椿君、」
どこにも行かないでね。
小さく、されど決定的な言い方。
泣いてもいいのに涙を見せない、この人を裏切ることなんて、元から頭にないのに。
ぎゅっ、とその冷たい背中に抱き着く。
「…あなたが王様というならば、」
僕は、あなただけのモノになりますから。
暗闇に静粛が戻る中、聞こえてきたのは、微かな笑い声と今にも消えそうな言葉。
「…椿君、好きだよ。」
王様は泣かない。多分、これからも。
101228
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