飴の代わりにキスをする










最近、椿にキスを拒まれる。


拒まれる、ってわけじゃない。たまにやんわりと逃れられる時がある。極たまに。
夜の行為のときは全然問題ない。が、昼の練習が終わったあとや夕方のふとしたときにキスをしようとすると何だかんだごまかされている。
何で、と思うがいちいち理由を聞くのもなんだか心が狭いやつみたいで格好がつかないわけで。

「椿…」

俺の部屋で雑誌やら音楽やらの余暇を楽しんでいる今もキスをしようと攻めてみる。
名前を呼ばれて俺の方に顔を向けた椿の頬に手を触れて、唇を近づけていく。と。

「ザ、ザキさん、待って…」

顔を赤くしながら緩く肩を押されて抵抗される。
眉を下げて少し申し訳なさそうに上目遣いされる様はすごく、可愛い。…じゃなくて。
椿がキス自体嫌じゃないというのは分かる。が、さすがに数回拒まれるとワケが知りたくなってきて。
心が狭いとかもうそういうことを気にしてる場合じゃない。
恋人にキスを抵抗される方が傷つく。

「なあ、何で今ダメなの」

ずっと疑問に思っていたことをやっと口に出す。
椿の肩を掴みながら聞いてみると、不安げにこちらを覗いてくる。若干涙目だ。
あ、もしかして怯えてんのか…?

「べっ…つに、怒ってないから、な」

焦って否定の言葉を付け加える。
自分では無意識ながら、昔からこんなツラだったために相手を脅かすことが少なくなかった。
まあ今まではそんなことどうでもよかったが、今好きな相手にまでそういうちっさい誤解をされるのは、出来るだけ避けたい。

じっと椿の言葉を待っていると相変わらず顔を赤くしながら、ぅー、と小さく唸って恥ずかしそうにチロッと舌を出した。
その行動に軽くムラっときたのは置いといて、いきなり何だと目を丸くしていたら差し出された舌の上に何か乗っているのに気づいた。

「……飴?」

透明な小さいカタマリを認識するや否や、椿は舌を引っ込めた。
こく、とうなづいて俺を見る。
一瞬フリーズ。
ちょっと待て、飴が関係してるってのはわかった。俺も一応頭の回転は早い方だし。
その飴がどうしてキス出来ない理由なのかがわからない。
 
「最近、乾燥したり口寂しくて…で、そう世良さんに言ったら、みんなが飴玉をくれるようになって」

へら、と照れた顔で嬉しそうにワケを告げる椿。
何でそこで世良さんに言うんだお前は。
みんなが飴玉くれるのはお前を狙ってるからだ、椿。俺のいないとこで何誘惑されてんだコラ。
ハァ、と自然とため息がもれた。

「…で、何でキスしちゃいけねえの」
「え、だって…飴が、」

そこで言葉に迷ったのか、喋るのを止めてしまう。
椿のことだから、飴が入ってる状態でキスするのは考えられなかったのだろう。
今時どこのガキだ。純粋すぎて考え方に相違が生まれてしまった。

飴が入っててもキスは出来んだよ、椿。

「?ザキさ…、ンッ」

顎に手を添えて上を向かせた拍子に、口を塞ぐ。
いきなりの反動で椿はギュッと目をつむった。びく、と動いた両腕を自分の首の後ろに回させる。
椿の後頭部をがっしり掴めば逃れられない状態になり、かなり密着した形でキスすることとなった。

「ん、むっ…、」

息苦しさから口を開けるとヌ、と舌が割り込まれた。
角度を何度も変えて味わうように舌を動かす。逃げる椿の舌を追っては絡ませるとビクッと椿の体が震えた。
あ、そういや。飴あったっけ。
思い出して更に舌でまさぐる。

「は、っ、」

くちゅ、と水音が部屋に響いて濃厚な空気が流れる。
チラッと椿を見ると顔を真っ赤にして必死に応えている。クソ、可愛い。フルフルと濡れた睫毛がまた煽られる。
コロン、ふと飴玉が転がった。
その飴玉を舌先でわざと転がす。と、椿の舌がぶつかってより深く絡ませることになる。
しばらく両方の味を堪能したあとに飴を俺の方に移して口を離せば、つう、と銀の糸がひいた。
はあ、はあ、と荒い呼吸を整える椿。

「…レモン味、か」
「……っ」

初キスがどうたらとか言うが生憎キスは数え切れないくらいしてるんでね。
顔を真っ赤にして信じられないという目で俺を見る椿に、ニィと笑みを浮かべる。
恥ずかしさから俯いた椿は少しの反抗のつもりなのか、俺の胸元に頭をグリグリさせる。反抗どころか逆効果なんだが。
その様子が可愛くってブハッと笑ってしまった。

「〜っザキ、さん!」
「いや、わりぃ、ふっ」
「わ、笑わないで、ください!俺は、ザキさんが…っ、」
「俺が、なに?」
「…飴があるのに、キスしたら、悪いと思って…」
 
なんで、そうなる。
心の中でつっこんだ。
椿の思考回路を考えると、キスしたときに飴があるのは邪魔だろうから、とかそんなことだろうなきっと。
だいたい飴舐める理由が乾燥するとか口寂しいとか、そこが問題なんだよ。
一人で結論を出して、胸元にいる恋人の名を呼べば目がかち合った。
未だ恥ずかしそうにしている椿の前髪をかき上げて、額にキスを落とした。

「とりあえず、そういう時は俺を呼べ。あと、勝手に飴をもらうな」
「へ、?」
「わかったか?椿」
「は、はい、?」

頭にハテナが浮かんで首を傾げる。
全然わかってないな、さすが椿。その疑わない心も含めてお前が大好きだ。
飴の代わりに、これからは俺が口寂しくないようにしてやるよ。

そうして触れるだけのキス。


レモンの甘酸っぱい味が口に広がった。




110330




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