エンジョイノープラン











「椿、これからどっか行かない?」

そう聞かれたのは、午前練習終了後のロッカールーム。
明日はオフの、日は高く暖かい冬の日のことであった。



電車に乗って10分が立つ。
乗客がほとんどいない中、俺と石神さんは手を繋ぎながらゆっくり揺られていた。

「…ガミさん、これからどこ行くんですか?」
「んー、どこへ行こうか?」

石神さんの方に顔を向け、何も聞いてないまま来たことに疑問を持ちつつ問い掛けてみる。
が、たやすく聞き返されてしまった。

「行く場所とか、」
「決めてないよ」

え、と驚く俺とは対称的に、石神さんは楽しそうに笑みを浮かべる。

「いい天気だなあー」
「あのガミさん、」
「何だよ椿、行きたいとこあるの?」
「そういうわけでは…ないんですが」
「じゃあどうしたよ?」

どうした、と言われると言葉が出てこないが、この今の状況こそがどうすればいいのかわからなくなってくる。
行く宛てもないのに、どこまで行くのか。

「ガミさん、行くとこがないなら、何で電車に乗ったんですか?」
「ん?椿とこうしたかったから」
「それは、答えになってません…」
「えー?いいじゃんー」

何がいいのか、とりあえず次の電車で降りましょうと言えば、渋々納得してくれたようだ。



「晴れた日にさ、誰もいない電車で、椿と手を繋ぎながら揺られてみたかったの」

こて、と肩に頭が置かれる。
少しビックリしたが、ゆったりとしたこの雰囲気に不思議と流されてしまった。
俺もちょっとだけ、寄り添ってみる。

「椿、ねむい?」
「ねむくは、ないです」
「俺はねむくなってきた」

なんだか大きい子供みたいだ、と微笑んだら、石神さんもつられたように笑った。

「ね、今度浅草回ろうよ」
「地元、じゃないですか。他の人に見られますよ?」
「いいよ、むしろ見せつけたいし」
「もし監督に見られたら、」
「宣誓布告されそうだ」

ははっ、と笑う。
同時に次の駅のアナウンスが入った。

「あと5分くらいで着きますって」
「んん、そうかー」
「結局、お金が無駄になった気がします」
「ハッキリ言うねえ椿くん。よし、じゃあ次の場所でデートしよう」
「凄まじく、アバウトプランですね…」
「オジサンがエスコートしてあげる」
「えっ、あの、」

きっとあと2分くらいだろう。
そんなときに石神さんが顔を近づけてくるもんだから、ついつい避けてしまった。

「…ひどい、椿」
「だ、だって、外ですし…」
「キスしたかったのに、この行き場のない俺の愛はどうすればいいの?」
「え、えっ、と…」

苦笑している内にガタンと電車が止まる。
再びアナウンスが入り、プシューと扉が開いた。

「なんだ、たったの5駅しか進んでなかった」
「5駅も、ですよ、ガミさん」

降りた俺らは持っていたフリーパス券をかざし、改札口を通った。

「んー、快晴快晴」
「ガミさん、どこ行きますか?」
「まあまあ、焦らさんなって。まだ時間はたっぷりあるんだから」
「でも、もう3時過ぎてますよ?」
「そうだなー。ああ、どうせなら泊まりに行こうか、温泉とかさ」
「、へ!?」
「有名所があるらしいから」
「は、はあ…」

ほんとにアバウトだなあ、と感心してしまうほどマイペースな人だ。
もしかしたら、年の差の違いかもしれないけれど。
少しだけ、大人の余裕ってものに惚れ直してしまった。

「なーに顔赤くなってんのよ、椿?」
「え、あっ、や、違い、ますっ」
「否定できてないっての」
「う、っ」

顔を覆っていたハズの手はいつの間にかギュッと握られていて、そのまま引かれるように歩き出した。

「ガミさん、あの、手が…」
「恥ずかしいとか言っても聞かないからな?」
「ええっ…」
「俺、手繋ぐの、好きなの」

あたたかい俺の手に冷たい手が重なる。
何だかそれだけで心が満たされ、彼への愛しさがいっそう濃くなる。
自然と笑みがこぼれた。

「…です」
「ん?」
「俺も、好きです、ガミさんが」

言葉に乗せて思いを伝えれば、石神さんの頬がほんのり赤くなった。
それは、寒さのせいか、それとも。

「椿、大好き」

へらっと無邪気な笑顔を見せる石神さんに、胸が熱くなる。
ああ、たまにはこんな日もいいなあ。
大好きな彼が隣で笑う。





(ノープランでもあなたがいればきっと楽しいハズだもの!)




110214





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