あなたに恋した瞬間










 
「あれは…食満先輩?」
 
武闘派でいつも潮江先輩と喧嘩している後輩想いの先輩、だったような記憶がある。
何分接点が少ないもので、会うこともなければ話したことも滅多にない。
 
そんな食満先輩が一人、校庭の隅でしゃがんでじっとしているのだ。
後ろ姿からは何をしているのかわからない。
ただ、先輩の周りには静かに穏やかな風がゆっくりと吹いている気がした。
 
「食満先輩!」
 
様子を見ても動かないので、俺は声をかけてみた。
そういえば、名前を呼んだのはこれが初めてだ。
そう気づいてから少し緊張したのと同時に、今まで背中を向けていた先輩がこちらに顔を向けた。
少し驚いた表情で俺を見る。
先の事、前の方で手を合わせていた様子が読み取れた。
なんだか一瞬物寂しそうにも見えた。
 
「お前は確か…五年の竹谷八左衛門か」
 
意外と名前を覚えててくれたことに嬉しさが込み上げてくる。
食満先輩の顔を間近で見る機会がなかったためか、じっと見てみると何とも端正な顔つきであった。
そういう目で見るのは失礼かもしれないが、男児にしては綺麗な容姿だ。
 
そういえば昔、食満先輩は上級生から性的暴力を受けていると耳に挟んだことがある。
当時は不可抗力だっただろう、が。
成る程、これなら納得がいくかもしれない。
 
とはいえ、今や悪い噂の一つもない先輩を過去の記憶で汚すのは失礼にも程がある。
先輩は決して悪くないのに。
 
「…竹谷?どうした?」
「あっ…いえ、何でもありません」
「そうか。用が無いなら俺は戻るが…」
 
先輩がスッと立ち上がった拍子に、チラと見えたそれ。
土が僅かに厚く盛られていて、側に一輪の花が置いてあった。
 
「先輩、それは…」
「ああ…墓だよ、鳥の墓。今朝死んでいたのを見つけて埋めたんだ。…まあ墓っていってもこんなのじゃ成仏出来なさそうだがな」
 
はは、と申し訳なさそうに笑う先輩。
その瞳には悲しみの色が含んでいた。
俺は、死んでしまった鳥とそれを憐れむ食満先輩にどうしようもない気持ちになった。
 
「…先輩、泣かないでください」
「泣かないよ、俺は」
「泣いたときは俺の胸を貸しますから、我慢しないで泣いてください」
「どっちだよ」
 
ぶはっと笑う先輩。
やっぱり、そっちの笑顔の方がお似合いです。
 
「そろそろ戻りましょう」
「!おい、手が…」
「構いませんよ」
 
スル、と先輩の手をとる。
穴を掘ったらしきその手は土まみれで先輩は一瞬困惑の目を俺に向けた。
俺の手にも土はついたが汚いと思わない。
鳥を埋めるために掘った手なら、全く汚くない。
 
「先輩は優しいですね」
「そうか?」
「それと、先輩は綺麗です」
「…は?」
 
なぜ今まで知らなかったのだろう。
多分これは一目惚れというもの。
死んでしまった鳥の前で、少しの無礼講を許していただきたい。
 
ほんの少し、握った手に力を込めた。




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