その唇に、欲情する


 
“唇を切ったから見てくれ”
 
そう言われて医務室に来たのは同じ部屋の住人。
さほど痛そうな様子はなかったが、彼の唇には赤い雫がついていた。
どれ、と彼を目の前に座らし近くにあった薬箱から傷薬を出す。
じっと待っている彼の服は所々汚れていて、またあのギンギンと喧嘩したのだろう。と、思うと自然とため息が漏れた。
 
「薬、少ししみるけど我慢してね」
 
小指に少量の薬を取り、彼がうなづいたのを確認したところで優しく塗っていく。
彼はン、と僅かに顔を歪ませた。
しみるのは仕方ない、僕はお構いなしに透明なクリームを唇に広げていく。
血を拭わなかったためか赤さが艶を増しそのまま唇を占めていった。
まるで化粧をしているようだ。
 
ああ、なんて色っぽい。
 
そんな僕の下心にも気づかず彼は“ありがとう”と礼を言って部屋を後にする。
僕は二度目のため息をついた。
きっと君はまたアイツのところに行くのだろうね。
そして、また僕のところに来る。
全く人の気もしらないで。
 
今度は婢薬でも、混ぜてみようか。
 
 
(その唇に、欲情したのだから。)
 

100830


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