本当は、わかっていた


 
人を傷つけるのは、こわい。
悲しくて、痛くて、つらい。
 
 
手を真っ赤に染めて任務終わりに一番最初に会いに行ったのは、いつも医務室にいる不運な同期だった。
 
頭が真っ白になりながら必死に走ってきたのに、そいつを見た瞬間急に目の前が鮮やかになった気がした。
 
何も言わずに安堵の息をもらすと、彼は顔の色を変えて慌てて俺を部屋に連れ込んだ。
 
「留三郎、」
 
大丈夫かい?
 
俺の両手をとりながら眉を八の字にして彼は、心底心配そうに聞いてくる。
 
ああ、そうか。
 
その手には血に染まった、真っ赤な色がついていた。
 
「これは、俺の血じゃ、ない」
 
伊作、触るな。
 
お前の手が汚れてしまうよ。
 
苦笑しながらそう言った直後、いきなり目の前が暗くなったと思ったら俺は伊作に抱きしめられていた。
 
つらかったね、もう大丈夫だよ、
 
子供をあやすような優しく静かな声が頭上から聴こえてくる。
 
伊作は何をしているんだ?
 
時折背中を撫でられてはポンポンする様が本当に子供をあやしてるみたいで、苦笑いがこぼれた。
 
同時に、目頭が熱くなって、胸が痛くなった。
 
何だろう、これは。
 
「なあ、伊作」
 
なんで俺は、泣いているんだ?
 
任務はちゃんと出来たのに、なんで涙が止まらないんだ?
 
不思議そうに俺がそう言うと、伊作はすごくつらそうな顔をしたから何だか俺まで悲しくなってしまった。
 
「ごめんな、伊作」
 
「何で留三郎が謝るのさ」
 
だって、お前がそんな顔するから。
 
「仕方ないんだよ」
 
僕らが生きるためには、仕方ないことなんだよ。
 
無理な笑顔でそう言った伊作は、すぐに俺の両手を丁寧に拭いてくれた。
 
なぜだか、また涙が出てきた。
 
「ごめんな、」
 
誰に言ったのか、小さく呟いたその言葉は伊作に届くことなく風の音と共に消えていった。
 

100812


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