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※時系列など捏造なため閲覧注意


巨人のことも忘れ始めた人類は壁の中で平和に生きていた。ウォール・ローゼにあるジナエ町、そこに私、ナナコ・ナナシは住んでいた。その隣の家には歳が離れたお兄さんの家族が住んでいて、よく一緒に遊んでもらったりしていたのだ。一人っ子で近所に歳が近い子どもが居なかったため、お兄さんの存在は私の中で次第に大きく、大きくなっていった。

「マルコお兄ちゃん!」
「やぁナナコちゃん、おはよう。今日は随分早起きだね」

お兄さんの名前はマルコ・ボット。夏真っ盛りの今日も早朝から庭の花に水やりをしているお兄さんの元へと珍しく早く目が覚めたためやって来た。そこには見たこともない花が咲き乱れていた。これなぁに?と聞くと「これは朝顔っていうんだ」と答えてくれた。私が質問すると必ず答えてくれる、物知りなお兄さんが大好きだった。
朝顔って花は朝だけしか咲かない珍しいものらしい。だからそんな名前を付けられたのかな。へぇ、と関心しながら朝日に照らされた水がきらきらとしている朝顔を眺めていると、「そうだ、今夜何があるか知ってるかい?」と水やりを終えてじょうろを片づけながらお兄さんが聞いてきた。お祭りはこの前やったばかりだし、花火大会はまだまだ先だし…分かんない、と答えると「今日は流星群っていうのがあるんだよ」と教えてくれた。流星群、私は聞いたこともない単語を無意識に口に出していた。くすっとお兄さんは笑って、今夜一緒に見に行こうと言った。
その時までお楽しみと言われた私は結局謎が残ったまま、朝ごはんよ、とお母さんに呼ばれたため家に帰ることにした。お兄さんは「また後で迎えに行くからね」と手を振りながら見送ってくれた。


その日の夜、わくわくしながら私はお兄さんに手を繋がれて近くの丘へと歩いていった。こんな時間にはなかなか外へと出ないので、とてもわくわくしている。そしてお兄さんと手を繋いでいることがとても嬉しかった。その頃は恋なんてものは知らなかったけれど、少しいつもより心臓が動くスピードが速かった気がした。

暫くして丘に着くと流星群とやらを見に来たであろう人々がちらほら見えた。私たちもその辺で腰を下ろして空を眺めていた。始めはまだ薄らと残っている月ときらきらと輝いている星しか見えなかった。それだけでもきれいだと思っていたが数十分経った頃にその時が来た。

「わぁー!」
「ね、凄いでしょう?これが流星群」


次々と夜空から星が零れ落ちてくる。あっちを見ても、こっちを見ても。凄い凄い!とはしゃぐ私の横でお兄さんは「連れてきてよかった」と言った。流星群は流れ星がたくさん見れるんだって。そして星が流れる前にお願い事をすると願いが叶うらしい。私は心の中でひっそり、マルコお兄ちゃんとずっと一緒にいれますように、と願いを唱えた。本当は3回言わないとだめと言っていたけどこんなに早く流れてしまう星には間に合わないと思ったため、1回だけ、しっかりとお願いをしておいたのだ。お星様、お願いします。



数年後、ウォール・マリアのシガンシナ区から巨人が入ってきたたという情報がこの町にも入って来た。まだローゼ内は安心だが、いつ巨人が襲ってくるか分からないため注意しろという伝令が各家庭にも回って来た。私はまだ幼かったためよく分からずにお母さん達の言うことを聞くしかできなかった。
それからまた2年後、お兄さんは12歳になったため訓練兵団に志願すると言っていた。王様の近くで仕事をしたいんだって。出発する前に私の家へとやってきて、小さな袋を渡された。中を確認すると茶色の粒がたくさん詰まっていた。


「これからはナナコちゃんがこのお花を育てるんだ。これはずっと前に教えてあげた朝顔の種。夏にしか咲かないけど、毎年ここにきれいな花を咲かせてね。朝顔は花が咲き終わると種が必ずできる。だから僕がここへ戻ってきた時にも見せてね」

そう私の頭を撫でながら言ったお兄さんの顔はにっこりと笑っていて、寂しいと感じて泣きそうだった私もつられて笑顔になった。初めて朝顔を見た時から毎年咲くのを楽しみにしていた私のためにわざわざ種をくれたのだ。お兄さんから貰ったのならばしっかりと私が育てておこう。約束だよ、と指きりをして訓練宿舎へ向かうお兄さんを精一杯手を振って見送った。
訓練期間は3年。それまで私は毎年夏になると朝顔の種を蒔き、朝早く起きて水やりをした。いつも起きるのが遅かった私が夏になると急に人が変ったようになり、お母さんも驚いていた。その甲斐あって、毎日きれいな朝顔の花を見ることができたのだ。始めは薄い青紫色だけだったのだけど、次第に勾配によって赤紫っぽい色やピンクのような色も咲き始めた。そのため毎年どんな花が咲くのか楽しみでしかたなかった。
お兄さんも今頃憲兵団という王様の近くで働くことができる兵士になれるように頑張っているのだろう、と私も一生懸命花を育て続けた。そして毎年流星群の日には、お兄さんが無事に帰ってきて一緒にいれますように、とお願いし続けた。



お兄さんを見送って3年。また夏がやってきた。そしてお兄さんから手紙が届いたのだ。水やりを中断して家の中へと入り、椅子へと座った。ナナコ・ナナシ様と丁寧な字で書かれた封筒をゆっくりと開け、便箋を取り出した。内容は、10番以内に入ることができたこと、新しい友達もたくさんできたことなど様々なことが2枚に亘ってびっしり書かれていた。最後に朝顔はちゃんと育てているか、ということが書かれていた。もちろん、現在もしっかりと庭には朝顔が咲き乱れている。
このことを報告しようと封筒の裏に書かれた住所へと早速返事を書くため、部屋へとレターセットを探しに行った。いざ、書こうとすると手が震えてインクがにじんでしまい、何枚も何枚も便箋を無駄にしてしまった。お兄さんが好きだということに最近気付いた私はますます意識してしまって、書きあげるのに数時間もかかってしまった。


そして悲劇はウォール・ローゼにも起こった。手紙を貰って数日後、トロスト区まで巨人が進行してきたのだ。ジナエ町はまだ無事であったが、ここもいつ巨人がやってくるか気が気ではなかった。そう言えばお兄さんも戦っているのだろうか。兵士になったのだから当然トロスト区に出撃しているのだろう。でも大丈夫、10番以内に入ったお兄さんならきっと強いから巨人なんかに負けない。そう思うことしかできなかった。
日も暮れてきたころ、なんと巨人によって壁の穴が塞がれたという伝令が回ってきた。実際に巨人なんか見たこともないため、人類の敵だということしか知らなかったが暫くは安心だろう。今夜は流星群の日。今年も私はあの丘でお兄さんの無事を祈る。


星に願いを



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