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※この世界に、別れをのリヴァイ視点。時系列捏造、グロ表現があるため閲覧注意




あいつを見つけたのはたまたま、そう、偶然だった。そして、巨人どもを必ず絶滅させ、平和に過ごせる世界にすると決めた。誰もが生きることができる世界を。


前回の壁外調査から兵士長となった。かつてはゴロツキなんぞやってたが、エルヴィンと出会い、調査兵団として心臓を捧げることとなった。今年の新兵を交えての拠点拡大を目指した調査は、いつもよりも奇行種が多く現れたため、隊列も崩れ、壊滅的な状態となった。中央後列にいた俺は、最も被害を受けた左翼側を確認しに行った。そっちは巨大樹の森がある方向で、赤や黒の煙弾が多く上がっていた光景は先程見たばかりだ。馬を最高速度で走らせ、ある程度森に入ってから立体機動に移る。アンカーを突き刺しながら進むとたくさんの兵士達が転がっている。すれ違った何体かの巨人は削いでいき、進路を確保する。

その先で、立体機動を使おうとしないで立ち尽くしたあいつを見つけた。何してんだ、くそ。これ以上兵を失うわけにはいかない。そう思って俺は更にスピードを上げ、あいつを襲う巨人目掛けて飛んでいったのだ。間一髪、助けることができた。

「おい、お前。今何故飛ぼうとしなかった」

あいつの元に降り立ち、そう問いただした。すると、ぽつりと「私、死にたいんです」とだけ呟いた。は、冗談じゃねぇ。死にたいだと?俺はその言葉は本心でないと思った。何故ならば、あいつは巨人を目の前にして怯えていた、俺を見つめているそいつの目はまだ輝きを失ってなどいなかった。本当に死にたいのなら、怯えもせずに覚悟を決めているだろう、目も輝いてなどいない筈だ。

「お前の気持ちはどうでもいい。あんな汚ねぇ奴らに食われたいのか?俺は、これ以上仲間が減らないように巨人を全て駆逐する。兵士長としてな」


それだけ告げてまだ生存者がいるかを確認するためにその場を後にした。それから数年経ち、あいつは班長となったらしい。まだ生きているようだ。やはり死にたくなんかねぇんじゃねぇか。ちゃっかり生き延びやがって。



そして、今回の調査。あいつの班は最前線らしい。それだけ、頭の片隅に記憶していた。はじめは巨人を上手く避けながら進行することができていた。しかし、暫くしてから前方より赤い煙弾が次々と上がった。黒もいくつか見えた。そう甘くねぇか。
こちらへと伝達の兵がやってきて「前線が現在交戦中ですが、ほぼ壊滅。目的の方向にも多数、巨人がいる模様」その言葉を次に回すために後ろを走っていた兵に行かせる。ちっ、また壊滅状態なのか。俺は嫌気が差した。エルヴィンにも伝わり今回は撤退をすることに決定し、煙弾が打ち上げられた。


そういえば、あいつはどうなった。それが気になり、撤退する前に前線を確認しに行きたかった。班には先に壁内へ戻るよう指示し、俺はエルヴィンのところへと急いだ。

「おい、エルヴィン」
「どうしたリヴァイ。撤退だ」
「前線を確認しに行かせろ。まだ助けられる奴がいるかもしれねぇだろ」
「…止めても無駄なようだな。行け」

あまり前には行くな、と言われたが俺は既に最前線目掛けて馬を走らせていた。どうしても、あいつは死なせたくない。今まで見てきた兵士達の誰よりも生きたがってた。目があんなに輝いていたのだから。途中、幾つかの誰のものかも分からぬ下半身や壊れた立体機動などが転がっていたが、巨人の姿は見られなかった。前線は交戦中じゃなかったのか?奴らは既に違う場所へと移動したのか?疑問は募るばかりである。考えを巡らしていると一人の兵士がもがいているところを発見した。

「お前、大丈夫か」
「お、俺は…もう…こ、の先…に、班長、が…」


それだけ言うと息絶えた。守れなかったのか、くそ。誰も死なせたくなんかねぇのにな。ジャケットだけでも回収し、少し先へと進むと森が広がっていた。前にもあいつを見つけたのは木が生い茂っている場所だった。
もしかしたらまた、いるかもしれない。そう頭を過ると直ぐさまに馬を繋ぎ、上から捜すために立体機動へと移動手段を変えた。ある程度進むとまた不自然に曲がった腕や横たわった馬が見つかった。そして、最も捜していた人物がいたのだ。空に片手を伸ばして。その姿は誰かを求めているようにも見えた。


「お前、あの時の死にたがり野郎か」
本当は誰よりも生きたいくせに。
「…覚え、てて……くれた、んで…すか、兵士…長さ、ん」
覚えてるも何も忘れる筈ねぇよ。
「忘れねぇよ。俺はそこまで馬鹿なんかじゃねぇ」
あんな輝かせた目は一度見たら忘れられない。

地へと降り傍へ寄るとやはりあいつだった。しかし、前とは違い今はもうあの輝きは失いかけていた。落下が原因か?立体機動は外れて身に付けていない。まぁこの木の高さからなら即死じゃなかったのも奇跡だ。この辺りに巨人が居ないのはこいつが処理したからか。それでガス切れでもしたのだろう。やっぱり食われたくなかったのか。ろくに喋ることもできていない、恐らく肋骨でも折ったのだろう。左腕もさっきから動いていない。もう起き上がれそうにもなさそうだ。間に合わなかったか。


「あ、の…」
「何だ」

悔やんでいると、僅かに口を開き、俺に右手を伸ばしてきた。

「わ、たしが…死ぬの、を、待って…くれ、ま…せんか…」
「……名は何という」
「ナナコ、ナナシ…で、す」


前に班長になったと誰かから聞かされた時に一度名前を聞いていたのだが、何故か忘れてしまっていた。顔は覚えていたのに。そうか、それがお前の名か。ナナコ・ナナシ、その名を心に深く刻んだ。差し伸べられたナナコの右手を掴む。すると、彼女は涙を流し始めた。俺はその様子を黙って見ていることしかできなかった。その涙はとてもきれいだと感じた。そして。


「俺はお前…ナナコを救いたかった。お前はあの時死にたいと言っていたが、目では誰よりも生きたいと訴えていた。約束する、全ての巨人を削いで、絶滅させると…そして、次に生まれる時には平和な世界にしてやろう」



だから、安心して眠れ。


その言葉は通じたのだろうか、恐らく通じていないだろう。掴んでいたナナコの手は既に力など入っていなかったのだから。俺はそっと、彼女の手を胸の上に置き、立ち上がった。そして、掴んでいた右手を握り締め、己の左胸へと叩き込んだ。


愛しい人よ、また来世
(次は平和な世界で会いましょう)



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