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※とにかく暗く、オチも微妙。グロ表現があるので閲覧注意




あ、落ちる。そう気付いた時にはさっきまで近付いていた空から離れていくだけだった。ガスがここにきて切れたのだ、まぁ最前線にいるわけだから仕方の無いことだ。周りにいた巨人はある程度項を削いで倒した。でも、一緒に行動していたかつての仲間達はもう居ない。巨人の腹の中もしくはこの森の何処かに肉片として落ちているのだろう。弔う時間も無かった、別れを惜しむこともできなかった。

私は両親共に壁外調査で亡くなり生きる希望を無くした。だから訓練兵に志願し死に場所を求めた。両親と同じ調査兵団になって、早く同じ場所に行きたいと思っていた、なのに。どうして巨人を前にすると死にたくない、と思うようになったのだろう。身体が無意識にレバーを引いてワイヤーを伸ばし、項目指して一直線に飛んで二本の刃を向けるのだ。


人生初の壁外調査、そして人生最後の壁外調査にするつもりだった。けれども生き延びたのだ。10m級と対峙した時に脚が竦んだ。班長や同期、他の班員は既に息絶えていた。もう私一人しかいない。通常種ではあったが、実際の巨人を目の当たりにし、声も出なかった。馬鹿でかい手を私に向けて伸ばしてきて、視界が徐々に影で覆われていく。確実に食われる、そう思った瞬間、アンカーが刺さる音がして瞬く間に項を削いだ影が見えた。一瞬の出来事だった。見たこともない早さの移動、無駄の無いガスの吹かし方。その正体がこちらに飛んでくる。

「おい、お前。今何故飛ぼうとしなかった」

そう男は言った。私は死にたかった、でも心の何処かで食われることにびくびくしていたんだ。一口で食べられればいいのだが、腕、脚と一本ずつ引き抜かれていくような痛みは嫌だと思った。そうか、私は怯えてたんだ。

「私、死にたいんです」そう答えるとその男はまた口を開いた。

「お前の気持ちはどうでもいい。あんな汚ねぇ奴らに食われたいのか?俺は、これ以上の仲間が減らないように巨人を全て駆逐する。兵士長としてな」

そうはっきりと告げるとまた何処かへと飛んでいった。その時からだ、無意識に生きるための行動するようになったのは。壁外から帰ってくるといつも後悔する。部屋に一人、ベッドの上に蹲って泣く。仲間を失う辛さ、帰ってきてからの市民からの罵詈雑言、それよりも何故私は今日も死ななかったのか、を悔やむのだ。あんなに死にたくて調査兵団に入ったのに、いつの間にか生き延びて班長にまでなっていた。彼に、兵士長に出会ってから私は変わったんだ。


そんな回想をしながら私は落ちる、落ちる。途中、木々の枝にぶつかり地面への衝撃が和らげられた。でもそう長くはないだろう。なんせここは壁の外、巨人達の巣窟なのだから。いつまた巨人が来てもおかしくない。ガスも無く先程の落下で肋骨や脚が折れた私に逃げる術は無い。馬も何処かへと飛ばされた。ああ、私はここで誰にも気付かれずに終わるのか。何で涙が出てくる、今までに望んでいたことがやっと叶うのに。もう考えても分からないや。でも、ひっそりと消えるのは嫌かもしれない…我儘かな。


辛うじて動く右手をそっと空にかざしてみた。その時だ、あの日見た影が横切った。そして、私の元へと降りてくる。

「お前、あの時の死にたがり野郎か」
「…覚え、てて……くれた、んで…すか、兵士…長さ、ん」
「忘れねぇよ、俺はそこまで馬鹿なんかじゃねぇ」

肋骨が折れているため上手く喋ることができない。一人で死にたくないという思いが神にでも届いたのだろうか。

「あ、の…」
「何だ」

「わ、たしが…死、ぬの、を、待って…くれ、ま…せんか…」
「……名は何という」
「ナナコ、ナナシ…で、す」

苦しいが、精一杯喉の奥から声を出す。彼は私の名を聞くと右手を掴んだ。温かい、そう思った。すると、また涙が出てきて兵士長の顔と空が滲んで見える。これが死、なのか。両親はどんな思いだったのだろう。涙をぽつり、またぽつりと流しながら意識が薄れていくのを感じた。彼が口を動かしているが、何を言っているのかもう、分からない。


最期に見た空はとてもきれいな青だった。そして暗い、闇へと深く堕ちていく。


この世界に、別れを



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