君とラムネ | ナノ
ジャンが自転車を一生懸命に漕いでいるなか、私は吹きつける風を堪能していた。走っている時みたいに受ける風を直に感じることができる。自分で漕ぐよりも幾分気持ちがいい。

「ねぇ、もっと速くー」
「馬鹿言うんじゃねぇ、二人で乗ってんだからこれ以上は無理だ」

何ならナナコ、てめぇが漕ぐか?とか言い出したから即お断りした。小学生の頃は私が漕いであげたこともあるけど、成長期である男の子を乗せて走らせるなんて無理がある。いくら陸上部に所属してたからって所詮は女の子。体力だって男の子に負けてしまう。


私の文句を華麗に受け流し、ジャンは何食わぬ顔で通学路を突き進んで行く。流石、バスケ部元キャプテン。今でも同じ中学だった友達と近所のコートでやってるらしいから、体力は衰えていないようだ。


「ほら、もうすぐ着くから降りろ。初日からバレたら面倒だろ」
「はーい。お疲れさん」

朝食ってねぇから辛かった、なんて言ったからブレザーに入れといたのど飴をあげた。まだこの時期喉が乾燥する。

「飴で乗り切れるわけねぇだろ。まぁ、貰っとくわ」
「文句言うならあげないし」
「あっ、取るなよ!もう俺のもんだ!」
「痛いー!髪抜けるううう」

周りに登校してきた何人かの生徒達にクスクスと笑われた。私達はそれに気付いて恥ずかしくなったので、大人しく校門をくぐった。


「相変わらずだね、二人とも」

静かに火花を散らせていると、後ろから聞き慣れた声がした。最近声変わりして少し低くなった澄んだ声の持ち主は


「マルコ!」
「おはよ、ナナコ」
「おぉ、お前も今来たのか」
「ジャンは自転車ってことはいつもみたいに二人乗りして来たのかな?」

中学から仲良くなったマルコであった。私達のことをよく知る彼には全てお見通しのようだ。内緒にしてね?と頼むとカラッと笑いながら言うわけないよ、と言ってくれた。いつ見ても爽やかな笑顔だ。

こんなふざけた二人の保護者役でもある彼を含めて、三人でクラス発表の書かれたボードを目指して歩いた。



ここ、ウォール・マリア大付属進撃高校、通称進撃高校またはマリア高は、この辺では大きく有名な学校だ。ウォール・ローゼ大付属、ウォール・シーナ大付属と肩を並べる三大進学校と名を知られている。勉強はもちろんだが、部活動にも力を入れている。


「あっ、あそこみたいだね」
「人が多すぎて見えねぇ」
「二人が見えないなら私無理」

仕方ない、もう少し人が居なくなるのを待とうとした。すると丁度見たことのある坊主頭が手を大きく振りながらやってきた。同じ地区の中学出身のコニーだ。学校で行われた合同高校見学会の時に仲良くなった。まぁ、あの時は色々あったな…

「おー、ナナコもいたか!ジャン達より小せぇから気付かなかったぜ!」
「あんたより大きいわ!」
「ちょ、悪かった!叩くな!って、それより俺達みんな同じクラスだぞ!」

そう告げられ私はコニーを叩くことを止めた。サシャもいるぞ、と付け加えられて更に嬉しくなった。コニーと仲良しで、前にこのメンバーと一緒に勉強したことがあり、そこから連絡を取り合う仲になった。


「それで、サシャは?」

マルコが尋ねると、コニーは売店だ、と一言だけ告げた。どうやら早速探しに行ったようだ。彼女らしいな。

「とりあえず教室行こうぜ」

その声を合図に皆昇降口に向かった。横に居たマルコに「ナナコ、嬉しそうだね」と言われて大きく頷いた。


ジャンと話をしながら歩いていると声がいきなり止まって、どうしたの?と彼の視線の先を見る。すっときれいな黒髪をした女の子が前を横切ったのだ。美人さんだ…と心から思った。はっとして、ジャンの方を見るとまだ彼女を目で追っていて、私はただジャンの横顔を見ていた。


世界が廻り始める



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