君とラムネ | ナノ
ばさっ。

勢いよく布団を捲り、私は心地良い温もりがまだ残るシーツからむくり、と起き上がる。ベッドの横にある学習机に昨晩セットして、無造作に乗っけたままの目覚まし時計を見る。まだジリジリとけたたましい音が鳴り響く前に目覚めるなんて、先月の春休み中に行われた恒例のお隣であるキルシュタイン家との合同旅行以来だ。

お互いが休みの時には殆どと言ってもいい程何処かに一緒に出掛けるという不思議な仲なのだ。主に私達子どもが夏休みや冬休みなどの長期休暇中とかなんだけどね。あ、でも両家とも父親が休みの時が近年少ないから昔よりは行く機会が減ったな。この前は久しぶりだったから寝れなかった。



「えっ、ナナコ?」

右手でぐしゃぐしゃの髪を梳かしながら一階への階段を降りる。そして、ベーコンの焼けるいい匂いが漂うリビングへと向かうと、カシャン。お母さんが持っていたフライ返しを床に落とし、私が早く起きてきたことに驚いていた。もう、お母さん。折角のベーコンエッグが焦げちゃうよ。

私が指摘するとお母さんは慌ててフライ返しを拾い上げ、流しでささっと洗い、調理をしながら会話を続けた。

「おはよう、珍しく早起きじゃない。どうしちゃったの?」
「んー…多分今日入学式だからかも」
「もう、いつまで経っても子どもなんだからぁ」

ふふっなんて笑うお母さん。「失礼だよ!今日から私も高校生なのー!」と反撃したら、ごめんごめん、と軽くあしらわれた。そう、私は行事がある日は七割以上の確率で目が覚めるのだ。


そんな平凡なやり取りをしてから私は顔を洗いに行き、二階の自分の部屋へと戻り、真新しい制服に着替えた。まだちょっと肌寒いけど、スカートを数回折って鏡で長さを確認する。うん、高校生だしこれ位いいよね!

ブレザーはちょっと動き辛いからまだ着ずに、黒いカーディガンを羽織った。そして光が射すカーテンを開ける。どうやらあいつはまだ起きていなさそうだ。



「お母さんお母さん!見て!」
「あら、スカートなんか短くしちゃって。私の若い頃みたい…!パパとの思い出が…」
「はいはいはーい、それはいいし。そんな感想求めてないからね!」
「あはは、似合ってるわよ。頑張ってジャンくんと勉強したかいがあったわね、ナナコ」

ネクタイ曲がってる、とニコニコしながらきっちりと直してくれる。いつもお父さんのやってあげてるから手慣れてるし、形も長さもきれいだ。冗談ばっか言って私のこと小馬鹿にしてるお茶目なお母さんだけど、この高校に行くために背中を押してくれたのは紛れもないこの母だ。勉強を教えてくれたのはジャンなんだけどね。

私のお父さんは出張によく行くため、あまり家にいることが少ない。だから進路を決める時期に丁度長期で海外出張へ行くことになってしまったため、全部お母さんが助けてくれた。受かったよ、とお父さんにパソコンでテレビ通話をした時には凄く喜んでくれた。仕事よりナナコだ!なんて言いながら帰国する準備をし始める父を画面越しに母が宥めていた光景がなんとも滑稽だった。でも、なんだか家族全員が揃って家にいるみたいで楽しかった。



「じゃ、そろそろ行くね」

向かい側に座るお母さんにそう声を掛けて、椅子から立ち上がる。入学そうそう遅刻はしたくない…こらからはするかもしれないんだけど。あ、占い2位だ!……ジャンが1位とか…悔しい。


「ナナコ!今日しっかりね。寝たりなんかしないのよ?隣のキルシュタインさんに見ててもらうからね!それから…」
「分かったよー。またおばさんに変なお願いなんかしてー」

私のお母さんも実はバリバリのキャリアウーマン。私の進学先が決定し、勉強に励んでいる頃、企画が大成功し結構いい役職に就いたらしく、会社へ出向く時間が増えた。だから今日の入学式にも出席できないため、ジャンのおばさんに任せたというけらしい。


「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい!」

先日新しく買ってもらったリュックを背負い、今後の高校生活に胸を躍らせながら外へと飛び出した。これから始まる生活がどうなるかなんて、まだ知りもしなかった。とりあえず隣の寝坊助を迎えに行こう。


はじまりの朝



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