君とラムネ | ナノ


―その頃キルシュタイン家では


「よし!みんなもう風呂入ったし、ゲームしようぜ!交代でさ」

コニーのこの一言で俺たちの夜更かしが決定した。俺が風呂からあがると、早々に持参してきたコントローラーを繋ぎ、コンセントを挿してスイッチオン。夕方まで勉強漬けだったコニーはもう限界だったようだ。エレンもワクワクとテレビ画面を見ていた。
俺はタオルで濡れた髪をガシガシと拭きながらダイニングにある椅子に腰掛けた。


「ジャンのおばさんが、たまたま実家に伯父さんの様子を見に家を空けることになってよかったよ」
「まぁな。こんだけの野郎が揃ったらうるせぇし」
「あんまり騒ぐなよ?」
「おう!どれからやる?」


俺達がナナシ家を後にして自宅へと戻ると、ババアが荷物を持って玄関から出ていくところだった。どうやら伯父さんの家に行くことになったらしい。こいつら絶対にうるせぇだろうし、好都合だった。
早速ソフトを起動させてエレンとコニーは対戦ゲームをやり始め、アルミンは隣で興味津々に画面を食い入るように見ていた。
残りのバスケ部組はダイニングの椅子に座り、適当に喋って順番が回ってくるのを待つことにした。そして、珍しくベルトルトが話題を振ってきた。


「そういやさ、ナナコってクラウス先輩とどういう関係?」
「この前の、あれか?」
「あぁ、確かには気になるな」
「なんだ、ライナー。お前はクリスタじゃねぇのかよ」
「ち、違う!クリスタは…」
「今日は勉強会来られなくて残念だったな」
「せっかく誘ったのにね、ライナー」
「俺のことより!先輩のことだろ、今は」

顔を赤くさせたライナーは自分が話題の中心になるのは嫌なのか、はたまたクリスタの話が照れるのか、先程ベルトルトが出した話題に話しを戻そうとする。


「ジャン、何か知らない?」
「あ?俺が知るわけ…」
「ジャンが分からないならこの話はここまで、か」


本当は知っている。先輩はナナコのことが気になってんだよ。まぁそれが真実かはどうだか知らねぇけど。でも、あれは絶対に好きだ。口調は穏やかだったが、目は試合中の時のような鋭さがあり、俺は本気だ、とでも言っているようだった。
ゲームを中断し、何を話しているのか気になったコニーたちも話の中に入ってきた。


「おい、何話してんだ?」
「いや、ちょっと部活のことでさ」
「ふーん。そういや、エレンってミカサとどういう関係なの?」
「ぶふっ」

唐突にマルコがその話題を出してきたせいで、火照った身体を冷やすために飲んでいた麦茶を吹き出してしまった。何で飲んでる時にわざわざミカサの話題にすんだよこいつ。狙って言ったのかよ。


「ジャン、飲み物吹き出すのはよくないよ」
「わ、わりぃ」
「ミカサに反応すんなよ」
「ライナー、お前…!」
「ここにいるみんなが知ってるんじゃない?」
「ま、マルコ!」
「ん?まぁ、ミカサは幼馴染みだ。俺たちは家族みたいなもんだよな、アルミン」
「うん、そうかな。エレン自信は特別な感情を持っていないから安心してよジャン」
「よかったな、ジャン」
「ベルトルトまで俺をからかうのか?」



ミカサのことは好き、なんだよな?入学式のあの時に一目惚れした。素直にきれいだと思った。
でも、最近何故かナナコのことが引っかかる。あいつはただの幼馴染みだろ。エレンとミカサの関係と同じ筈だ、なのに。

先輩の一件で何故か気になる。そう、いつも一緒にいたあいつが急にいなくなったら。一緒に帰る筈なのに先輩とナナコが一緒に帰るようになったら。俺はそう考えると、何故かナナコをとられたくないと心の片隅で思うようになった。
今日の勉強会が始まる前に麦茶を出す時に何気なく会話して、小突いて、罵って怒られて、という流れがいつも通りの俺らだ。風邪ひいた時に不格好なりんごを剥いてきてくれたり、朝起こしに来たり、一緒にゲームをやったりすることがいつかは無くなってしまうのだろうか。

これはミカサに抱く感情とは違う。そう、違うんだ。ガキの頃から兄弟のように仲よくしてたんだから家族みたいなもんだ。さっきエレンも言ってた家族、それがしっくりくるだろ。だから俺は…


「…俺は」
「ジャン、大丈夫?僕以外はみんなゲームに夢中だよ」

カラン、と麦茶が入ったグラスの氷が崩れた音で現実に戻り、マルコが声を掛けていたことに気付いた。はっとしてマルコの方を見る。一緒に座っていたベルトルトとライナーは既におらず、コニーたちと一緒にソファーの方でゲームを楽しんでいる。


「…マルコ、俺」
「もしかして先輩とナナコ?」

いとも簡単に言い当てられてしまったため、俺は黙って頷いた。


「俺さ、最近よく分かんねぇ」
「先輩にとられたくないんでしょ?この前の練習試合の時、何かあったのか?」
「お前には隠し事できねぇな…マルコ、お前だけに言うけどよ、先輩はナナコのことが好きかもしんねぇ。」
「僕はてっきり、ジャンはナナコとくっつくんじゃないかって思ってたよ、中学から」
「はぁ?なんでだよ!」
「見ててなんとなくだよ。でもミカサに一目惚れした」
「なんとなくかよ、ったく」
「まぁ、ゆっくり考えてみなよ。まだ高校生は始まったばかりだろ?」

そう言ってマルコは、さっき男子みんなで買いに行ったラムネを差し出してきた。俺はガツンとビー玉を中へと落とし、一口飲んだ。やっぱりうめぇ。


「おい!マルコとジャンも一緒にやろうぜ!」
「うん、今行くよ。ほら、ジャンも」
「お、おう!俺に勝てると思うなよ!」



とある少年の夜


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