君とラムネ | ナノ

ミカサが部屋を出ていってから、下の方でナナコたちの声がして、ドアが閉まる音が聞こえた。
あいつ、何してんだよ。ったく。


昨日、嘘をついてミカサに傘を貸した俺はナナコの傘に入れて帰ることとなった。恐らく、もし俺があのまま傘を貸さなかったら、ミカサはエレンの傘に入れてもらって帰っていただろう。
一応ナナコも女だ。風邪なんかひかせたらババアには文句言われるだろうし、何だか情けないだろ?それと単純にこいつと同じ傘に入るってのが少し恥ずかしかった。だから俺は、自分よりもナナコが濡れないように傘を持った。昔はよくやってたけど、最近はそういうのを見られるとからかわれたりする年頃だ。あいつはそんなの気にしてない感じだったけど、俺は内心少しドキドキしてた。らしくない。何であいつにドキドキしてんだよ。ミカサじゃあるまいし。

そんで俺は見事に風邪をひいたわけだ。
寝返りを打って天井をぼーっと眺め、さっきミカサと話したことを思い出した。



「ミ、ミカサ。何でお前が」
「ナナコが頼んできた。それと話は聞いた。傘、ごめんなさい」
「…そうか。あいつ、言ったんだな」
「でも、嬉しかった。ありがとう」

起き上がろうとするとミカサは「まだ起きない方がいい」と言ってくれた。
何を喋ればいいのか分からない。いつも俺は友達と何を話している?ミカサはどんな話題がいいんだ?そんなことを考えているとミカサから話し掛けてくれた。

「…ジャン」
「あっ、えっと…なんだ?」
「ナナコがとても心配していた。だから、早くよくなって」
「は…?」
「帰り道、ナナコは自分のせいでジャンが風邪をひいたと言っていた。酷く、落ち込んでいた」
「そう、なのか?」
「うん、本当。早く治すためにももう喋らない方がいい。寝るまでここにいる」

それ以上は何もお互い喋らなかった。俺は寝られる筈もなく、ミカサの居る逆の方向を向いて布団を被っていた。静かになった部屋に本を捲る音がする。どうやらミカサが教科書か何かを読み始めたのだろう。

部屋の外からナナコの声がした。帰り際、やっとミカサが口を開いた。「ナナコはジャンと居る時、いきいきとしている。ジャンもそんな気がする」とだけ言って部屋から出ていった。


「俺はそんなにいきいきしてるか?」

一人になった部屋でぽつりと漏らした。誰も答える奴なんか居ないのに。もしかして、ミカサに誤解されてるのか?
でも最近の俺はおかしい。何故かナナコのことをよく考えるようになった。特に練習試合があったあの日から。前まで何も気にしちゃいなかった。でも、何故か気になってしまうのだ。俺はミカサのことが好きなんだろ?なのに。何で昨日傘に一緒に入っただけでドキドキしてたんだよ。さっきミカサが見舞いに来てくれた時よりも何故か緊張していた。


あぁもう分かんねぇ、と布団に潜る。熱もだいぶ引いた筈なのにまた顔が熱くなってきやがった。
その直後、またドアがノックされる。なんだ、ババアかと思い、適当に返事をした。


「ジャン、少しは元気になった?」
「は!?ナナコかよ!」

俺はびっくりしてベッドから飛び起きると咳こんでしまったため、ナナコに寝てろ、と言われてしまった。なんでこいつが戻ってくるんだよ。急に心拍数が上がり余計に頭がくらくらとする。つーかどんだけ考えてたんだ?1時間近くも俺は考えたのか。


「あのね、ジャンが濡れないようにしてくれてたの知ってたんだ。ごめんね、それで風邪ひいちゃったんだよね」
「…なんだよ急に」
「だから少しでも元気出してもらおうと思ってさ、ミカサたちに来てもらったんだ」

いつも怒ってるか笑ってるかのどちらかの表情が多いナナコが今は眉を下げて無理に笑っているような顔をしている。そういや昔は泣き虫でよく泣いてたっけな。久しぶりにこんな顔見た気がする。左胸がチクリとした。


「それでね、おばさんに台所を借りてりんご剥いてきたの!」
「なんだ、これ」
「うさぎだよ、うさぎ!分からないの?」

これ食べて早く治してね、と本人曰くうさぎの形に切ったりんごの皿を渡された。「ミカサとどんな話したのか今度教えてよね!」と言って帰っていってしまった。これのために来たのかよ、あいつ。


お世辞にもきれいとは言えないうさぎらしき形のりんごを一口かじる。切るのに手こずって塩水に漬けすぎたのか、若干あまじょっぱいが、料理ができないなりに頑張ったのだろう。何故か美味しいと思った。いや、風邪のせいで味覚が狂っているのかもしれない。

そうだ、風邪をひいてるから俺はおかしいんだ。そういうことにしておく。
下の方からでかいくしゃみが聞こえた。



それはたぶん熱のせい


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