君とラムネ | ナノ

はっくしょん、と盛大にくしゃみをする。すると何人かが私の方を一斉に振り返った。
只今自習時間であり、しんと静まり返った教室内では、あのくしゃみは一際目立ってしまったのだ。

昨日、ジャンと折りたたみ傘一本で帰ったせいか、少し風邪をひいたようだ。私はくしゃみが出るくらいなのだが、ジャンは見事に高熱が出たため、今日は学校を休んでいる。
私をなるべく濡れないようにとしてくれたことは嬉しかった。でも、もっと自分のことも大事にしてもらいたい。やっぱりちゃんと傘入れって言えばよかった、と今更後悔して溜息を一つ。
いつも暴言ばかり吐いてくる左隣の空席を眺めながらそんなことを思った。

よし、ここは私がジャンに何かしてあげたい。恩返しというかなんというか、風邪ひいたのは私のせいでもあるから。


「私が?」
「そう、ミカサ!お願い!」
「…分かった。ナナコ、昨日のお礼もしたいから、引き受けよう」
「ありがとう!少しの時間でいいんだ、本当にありがとうね!」

そう言いながらミカサに抱きつくと「苦しい…」と言われてしまったため、ごめん、と急いで離れた。それにベルトルトやライナーに変な目で見られてしまっていた。後で誤解を解かないと。

私が考えたのは、ミカサにお見舞いに来てもらうことである。家が私たちとミカサたちは少しばかり距離があるため長居は無理そうだが、少しの時間だけでも、とお願いしたのだ。
もちろん帰りが心配なためエレンとアルミンも誘っている。アルミンは素直に了承してくれたのだが、エレンは渋々といった感じだった。確かにジャンとエレンってよくつっかかっているけれども。



「ナナコの家ってこっちの方なんだな。こっちは来たことねぇから探検みてぇだ」
「そうそう、エレンたちは電車だからね。それとごめんね、遠いのに」
「気にしない。だからナナコは謝らないで」
「そういやナナコは風邪大丈夫?くしゃみしてたけど…」
「なるべくうるさくならないように我慢してたんだけどね、今もで、出そう」

帰り道も何回かくしゃみをしてその度にみんなに心配されたが、熱も吐き気も無いため私は平気だよ、と言った。そうこうしているとジャンの家が見えてきた。
私があっちで、手前がジャンの家と説明すると「本当にお前ら近いんだな」とエレンが関心したような口ぶりで言った。

ジャンにはメールで、放課後にお見舞い行くね、と昼休みの間に連絡しておいた。五限の途中で分かった、とだけ返信が来たから一応朝よりはよくなっているのだろう。
インターホンを押すと、おばさんが快く出迎えてくれた。

「ジャンなら部屋で寝てるから。わざわざすまないねぇ、こんなたくさんの人に来てもらっちゃって」
「いえ、おじゃまします」
「大人数でおし掛けてしまってすみません」

四人で「おじゃまします」と家に上がらせてもらい、ジャンの部屋に早速向かおうとしたら「そうだ、ナナコちゃん」とおばさんに声を掛けられたため、先にミカサたちには階段を昇ってもらった。


「どうしたんですか?」
「ちょっと買い物してくるから、悪いんだけど少しの間、ジャンのこと面倒見てもらってても大丈夫かい?」
「分かりました!いいですよー」

おばさんはお礼を言ってから急いで玄関を出ていった。それを見送ってから私も階段を昇り、いよいよジャンの部屋の前に到着。そして、私の考えた作戦を決行する。



「ジャン!大丈夫?」
「…ナナコ、お前また…」

またやってしまった。ごめんなさい、と勢いよくドアを閉めるとエレンが「おい、何してんだよナナコ」と言ってきた。汗をかいたからなのか、ちょうどジャンがTシャツを着替えようとしていたところだったのだ。こんなところはミカサに見せてはいけない気がして、急いでドアを閉めたのだ。

「…もういいぞ」と部屋の中からジャンの声がしたため、改めて今度はノックをしてから入った。


「さっきはごめんね」
「いつもノックしてから入れよ。ったくよ」
「今日はね、ジャンのためにお客さん連れてきたの」

「…よう、ジャン」「具合、大丈夫?」とエレン、アルミンがそれぞれ入ってくると、ベッドに寝ていたジャンが吊り上がった目を丸くしながらまた起き上がった。


「なんでお前らが…」
「私が頼んだの。だいぶ良くなったみたいだし、二人で話でもしてなよ。私たち一階にでもいるからさ」
「は?どういう…え…?」

「ジャン、傘、ありがとう」


じゃあね、と部屋を出てミカサに入ってもらった。ジャンとミカサを二人きりにしてあげる、これが私なりのジャンへの恩返しとやら。
ちゃんと会話ができているのかが気になるところだが、それは後でじっくり聞くことにしようと思う。邪魔しては悪いよね。アルミンたちに下で課題でもやろう、と誘いリビングへと向かった。エレンは何故ミカサだけ置いてきたのかがよく分かっていなかったため、アルミンと適当に言い包めて一階へと向かわせた。



暫くするとおばさんが帰ってきた。そろそろ6時近くになるため、三人を駅まで送っていかなければならない。ミカサをドア越しに呼んで、おばさんに挨拶をしてからキルシュタイン家を後にした。ジャンに話したいことがあったため、おばさんにまた後で来てもいいかを尋ねると、もちろんと答えてくれた。


「今日はありがとうね、急に無理言っちゃってさ」
「いや、ここまで送ってもらっちゃってごめんよ」
「こっち来たこと無かったから楽しかったぜ。今度ゲームでもやりに来るわ」
「ナナコ、気を付けて帰ってね。また明日」


無事三人を駅まで送り届け、改札前で別れた。
ホームまで下りるのを確認して、家から押してきた自転車に跨る。ジャンにりんごでも持っていってあげようと思い、近所のスーパーに寄ってから帰ることにした。久しぶりの雨が降っていない日だったため、じめじめとしない空気を堪能しながらペダルをゆっくりと漕いだ。



君に恋の架け橋を


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