君とラムネ | ナノ

歩く会というイベントも好成績を収め、見事に部費を獲得することができた。
そして梅雨の季節がやってきた。朝ごはんを食べながら天気予報を見ていると、暫くは雨の日が続くのでお洗濯ものには注意、とお姉さんがフリップを持ちながらお知らせしていた。


「ナナコ、そんなにのんびりしてて大丈夫なの?」

お母さんにそう呼び掛けられ、はっと左上に表示されている時間を見ると、もう家を出る時間に近付いていた。天気予報の前に、好きな俳優の特集がやっていたため、つい夢中になってしまい、時間なんて忘れてしまっていたのだ。

「お母さんありがとー!いってきまーす」
「傘忘れないのよー?」


家を飛び出すと、偶然ジャンも家から飛び出て来たところだった。お互い、昨日の放課後に突如降ってきた大雨のせいで自転車を置いてきてしまったため、走って一緒に登校することにした。たぶんこのまま走り続ければ間に合うだろう。先日の歩く会のために自主的に走ったりして体力をつけていたため、中学の頃の感覚を完全とまではいかないが、取り戻してきたのだ。やっぱり走るのは楽しいな。



「はぁ、間に合った…」
「なんとか遅刻は免れたな」

私たちが教室に飛び込み、席に着いて少ししてからチャイムが鳴った。アニにおはようと挨拶をすると「またギリギリだったね」と言われてしまった。今月は先週に遅刻したばかりだ。


二限の授業が終わる頃からポツポツと雨が降り始め、次第に強まりグラウンドに大きな水溜りを作るほどになった。
その様子を授業の内容を軽く聞きながら眺めていると、運悪くばれてしまい、問題を解けと指名されてしまった。案の定分かる筈もない。素直に分かりません、と答えると「ちゃんと聞いてろよ、ナナシは数学の小テスト、毎回危ないんだからな」と怒られてしまった。ついでにコニーもな、と付け加えられ、クラスのみんなが笑ったところで授業終了のチャイムが鳴った。


「またぼけっとしてたのかよ」
「ジャン、うるさい」
「相変わらず仲いいんだね」
「アニ!別に仲よくない!」

休み時間にジャンがさっきのことを馬鹿にしてきた。いつものことなんだけども、少しはいいところを見ていないのだろうか。


三限、四限と授業をしている間にも雨はやむどころか強さを増していった。
昼休みになってミカサたち三人とお弁当を教室で食べながらまた外を眺めた。この調子じゃ今日も自転車は乗って帰れなさそうだ。雷まで鳴り始めた。ピカリと光ると、クリスタが怖がっていて、何だか可愛いと思った。私は雷には慣れた。陸上の練習やら試合やらも雷が鳴る中、大雨で中止とされるまで外で走っていたりしていたからだ。だから雷を怖がっている女の子っていうのは自分から見ると乙女に見えるのだ。


「この調子じゃ電車も動いてっか分からねーな」
「そうだね、僕たちちゃんと帰れるかな…」
「そっか、アルミンたちは電車で来てるんだもんね」
「…たぶん、大丈夫」

大丈夫と言ったミカサは、みんなに天気予報のページを開いた携帯の画面を見せてきた。エレン、アルミンと顔を寄せながら画面を覗き込むと、なんと今の時間が過ぎれば、帰る頃の時間帯には弱まると表示されていた。
「そんなら帰れるな」と安心したようにエレンはお弁当を食べることを再開した。ミカサはエレンを心配させないために必死に調べてたのね。


五限は眠い眠い、古典の授業だ。お昼ごはんの後だし、つい、うとうとしてしまう。先生の文章を読む声がいい感じに子守唄になる。しかし、今日だけは雨の音がうるさかったため、寝ずに50分間を耐え抜いた。
そして、六限が終わるくらいにはすっかり雨音も弱くなった。

ジャンは今日、外で練習の予定だったため、部活は中止になったらしい。それなら一緒に帰ろうということになり、荷物をリュックへと詰め込んでから昇降口へと向かった。
するとエレンたち三人が何か探しているようだった。話を聞くと、どうやらミカサのビニール傘が無くなっているらしい。恐らく、この雨で誰かが持って帰ってしまったのだろう。その様子を見ていたジャンがミカサの元へついに動いた。


「おい…ミ、ミカサ」
「どうしたの、ジャン」
「その、よかったら…これ、使え」
「いいの?」
「俺はもう一本あるから」
「おぉ、ジャンもたまにはいい奴なんだな」
「うるせぇ!エレン、たまにはってなんだよ。一言余計だ」

また喧嘩になるところだったが、ミカサが「じゃあ借りる、ありがとう」と傘を受け取るためにエレンとジャンの真ん中に割って入ったため、その場は何事もなく収まった。私とアルミンはただ呆然とその光景を眺めているだけだった。

また明日、と手を振って三人と別れた。私たちも雨が弱いうちに帰ろう、と傘を広げて外に出ようとしたところ「ナナコ、その…」とジャンが何か言いたそうにしていた。


「どうしたの?」
「傘、俺のことも入れろ」
「えっ、まさかあの傘しかなかったのにミカサに貸したの?」
「だってよ、もしあのままだったらミカサはエレンの傘で帰るところだっただろ…」

それが嫌だったため、咄嗟に嘘までついて傘を貸したらしい。まったく、初めて行動を起こしたと思ったら、ただの嫉妬だったのか。仕方ない、頑張ったから入れてあげよう。私が居なかったらこの馬鹿はずぶ濡れで帰ろうと思ったのだろうか?


「ジャンの方が背高いんだから持ってね」
「分かったよ。ありがとな」


折りたたみ式だったため、二人で入るには小さすぎたけれど、私の方になるべく濡れないようにと傘を傾けてくれていたことは、あえて知らないふりをしておこう。



水色少年少女


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